EBMとは

治療方針を決定する際に取り入れられるのが、「根拠に基づく医療」を意味するEBMです。

治療方法には、民間療法から最新の研究データをもとに考えられた方法までさまざまなものが溢れています。そのどれを選ぶか、どれを信じるかを考える際に重要なEBMについて、その定義や歴史、具体的な流れなどを見ていきましょう。

EBMは根拠に基づく医療のこと

EBMとはEvidence-Based Medicineの略称で「根拠に基づく医療」という意味

EBMとは「Evidence-Based Medicine」の略称で、「根拠に基づく医療」を意味します。

医療従事者のこれまでの経験や勘、権威者が推奨している、科学的に証明されていない方法などから治療方法を選択すると、効果が期待できないどころか患者にとって悪影響を及ぼすこともあるかもしれません。

そのようなことが起きないよう、具体的なデータ、客観的な結果が出ている方法など、信頼できる根拠がある治療方法を選択し、患者に合わせた治療をするためにEBMは重要です。

EBMの概要と定義

EBMは3つの要素から成り立っていると定義されています。

1つ目は臨床研究による根拠です。根拠もなくこれまでの経験などから編み出された治療方法などはEBMには取り入れられません。

2つ目は患者の価値観です。どんなに効果が期待できる治療方法であっても、患者の価値観に沿わない治療は無理に強行できません。スピーディーながら副作用が強い治療、本人や周囲の望まない延命治療、患者が支払えないほどの高額な治療費が必要となる治療などがあります。

そして3つ目が医療従事者の熟練性、専門性です。医療従事者の経験だけで治療内容を判断してはいけません。根拠のある治療方法をもとに患者の価値観に合わせた治療方法を考えるのは医療従事者の仕事です。

同じデータを参考にしていても、国や宗教、文化、経済状況などによって行える治療はまったく違います。患者の意思を尊重せずに根拠だけを頼りに治療を強行することを「エビデンスによる圧政」と揶揄することもあるのです。

EBMの歴史

EBMは1991年に提唱されました。
それまでの医療行為の中には、科学的な根拠がないまま専門家とされる人物や先人が行っていた治療、提唱した治療をそのまま実施していたものも多くあります。

例えば過去には乳児をうつ伏せで寝かせることをなんの根拠もなく推奨するという情報が流行した結果、多くの乳児が死亡するなど、世界的にさまざまな問題が起きていた事実があるのです。

その中でG.H.Guyatt(ゴードンヘンリーガイアット)氏が、初めてEBMという言葉を用い、科学的根拠に基づく治療の重要性を説きました。

EBMの流れ

EBMの流れの概要図

ここからはEBMの流れを解説します。

まずは具体的な治療や検査などに対する疑問の洗い出しです。
次にその疑問を解消してくれる文献を探し、その文献のエビデンスの質をよく確認します。

信頼できる文献を参考に治療方法などを考えていき、より効果の高い治療、検査、調査などをするようにしましょう。

疑問の抽出

疑問の抽出では、「その患者の病気や症状に対してこの薬を使用するとどんな効果が現れるのか」「その患者の症状から病名を明確にするためにはどのような検査方法が有用か」など、今後の治療方針を決める上で出てくる疑問を具体的に洗い出します。

この際に、実際の薬の名称や検査方法なども用いるとより効果的です。

質の高い臨床研究を検索

生じた疑問を解消するために臨床研究、文献を検索します。具体的な根拠のあるガイドラインに則って研究されたもの、科学的根拠があると証明されているものを選ぶことが重要です。

医療関連の論文は膨大な数があり、医療従事者、専門家によって結果や過程がまったく違うことも珍しくありません。その中から信頼に値するデータを探し出します。

エビデンスの質の評価

「ガイドラインに従っているから」「その道の専門家だから」という理由ではそのデータが正しいかどうかは判断できません。自身でチェックすべきポイントを確認していく必要があります。

ガイドラインはそもそも正しいのか、集めているデータの数は信頼に値するか、古すぎる文献ではないかなど、細かい点まで確認し、その根拠の質がどれくらい高いかを見ていくことが必要です。

患者への適用を検討

信頼できる文献のデータ、治療方法を、治療する患者に説明します。患者がその治療方法に納得できれば治療を開始できます。

結果や治療方法が患者の求めるものでない場合もあるため、医療従事者は根拠のある治療方法の中から患者にとって最善といえる方法を選ばなければなりません。

EBMを用いたデータベース構築の流れ

次に、EBMはどのような手順でデータベースに構築されていくのか、医療従事者が参考にするデータベースにはどのような情報が掲載されているのかについて、解説します。

医療機関での匿名加工処理

まずそれぞれの医療機関で匿名加工処理を施します。これにより、他の医療従事者がそのデータを読んだときに患者の氏名、生年月日、出身地や現住所などが伏せられるのです。患者の個人情報が外部に漏れることはありません。

データ提出

匿名加工処理をしたデータをデータベースに提出します。

システムはさまざまであり、どのシステムにデータを提供するかも重要なポイントです。治療方針の決定のために使うユーザー、商品戦略のために使うユーザー、論文作成のために使うユーザーなど、さまざまな目的のユーザーがシステムを使います。どの層が多いのかを見極めることが必要です。

データベース構築

提供したデータはデータベースに保存されます。
数多くのデータによって構築されたデータベースは医療機関や製薬会社、医療機器メーカーなどがチェックできます。

マーケティング調査・臨床研究などに活用

医療機関、製薬会社、医療機器メーカーなどが構築されたデータを閲覧します。

EBMの第一段階である治療や症状などに対する疑問を解決するために構築されたデータを検索し、根拠に基づいているデータをピックアップ。

そのデータをもとにマーケティング調査をしたり、臨床研究に活用したりします。さらに治療方法に取り入れたり、論文の参考文献にしたりするなどの使い方をします。

MDVのEBM診療データベース構築について

実際にMDVのEBM診療データベースがどのような流れで構築され製薬会社をはじめとする各機関へと活用されるのか解説します。

MDVのEBMデータベース構築についての概要図

二次利用許諾を得た診療情報

MDVは経営支援のシステムをご導入いただいている約800の医療機関のうち、医療データの二次利用許諾をいただいた情報(DPCデータ、レセプトデータ、検査データ等)や、保険者のレセプトデータ等を、それぞれの医療機関内で匿名加工処理された状態で情報をご提供いただき、EBM診療データベースに蓄積しております。

データ利活用サービス

EBM診療データベースで蓄積された「診療明細情報」と「レセプト情報」等は製薬企業様や医療材料・機器メーカー様等の製品戦略や市場実態の把握に用いられ、近年はPMS(製造販売後調査)のためのデータベースとしてもご選択いただいております。

また大学等研究機関様にも分析データを臨床研究等や、論文作成・学会発表の元データ等としてご利用いただいております。

EBMの活用事例

それではEBMの活用事例から、どのようなシーンでEBMの考え方が重要なのかを再確認しましょう。

わかりやすいのは、製薬会社の活用事例です。

製薬会社での活用事例

製薬会社で新しい薬を開発、または既存の薬を改良するには、膨大なデータが必要です。実際に薬が完成するまでに治験をする必要もありますが、そのためにはまず根拠に基づく効果、副作用を確認しなければなりません。

その際にエビデンスのあるデータを検索し、開発に取り入れることが重要になります。

さらに、薬はすぐにできるものではありません。完成までに長い年月がかかります。事前にデータを分析していれば、その分野でこの薬をどれだけ売り上げることができるか、どれくらい需要があるのかといったマーケティング調査にも役立ちます。

EBMについてよくある質問

質問1:EBMは何を目的にしているものですか?

EBM(Evidence-Based Medicine)とは、「科学的根拠に基づく医療」のことで、よりよい医療を提供するための一つの方法論です。具体的なデータ、客観的な根拠や結果が出るなどして信頼できる治療方法を患者が選択するために、EBMは重要です。

質問2:EBMのエビデンス(医学的根拠)とはどのようなものですか?

具体的なデータ、客観的な根拠や結果が出ている方法などのことです。患者に合わせた治療を提供するために、エビデンスは非常に大切になります。

質問3:MDVではEBMに関する情報について、どのような流れでデータベースを構築していますか?

医療機関で匿名加工処理されたデータをMDVに提出していただき、MDVでデータベースを構築しマーケティング調査・臨床研究などにご活用いただいております。

EBMを用いてより的確な判断を

現在でも医療従事者による経験や勘による治療が行われることもありますが、それでは重大な医療ミスにつながる可能性もあるかもしれません。

科学的な根拠を基にした治療方法、検査方法などを参考にして、より的確な診断をすることが重要です。

根拠に基づいたデータ、患者の価値観、医療従事者の経験といった3つの軸をもとに考えられるようにしましょう。

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