コラム

医療データベースとは?活用方法を解説#003

ヘッダー画像

医療業界でもIT化が進み、あらゆる診療データは電子的に管理されるようになりました。

より深い医療知見を得るために活用されているのが、医療データベースと呼ばれるビッグデータです。医療データベースは、医療機関が行ったあらゆる診療情報をまとめた統合データベースのことを指します。
今回は、医療データベースの役割や活用方法について解説します。

医療データベースとは

そもそも、医療データベースとは一体何なのでしょうか。まずは、医療データベースの概要や特徴を解説します。

医療データベースとは

医療データベースは、医療機関や患者から集めた医療情報が保存されている統合データベースのことです。ここでいう医療情報とは、患者から収集された傷病や治療のために処方された薬剤、臨床検査結果などの情報のことを指します。

医療データベースで取り扱われるデータの種類としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 請求書データ
    医療機関や薬局、健康保険組合など
  • 医療機関データ(HIS/DPC/EMRデータ)
    電子カルテ、オーダリング、画像診断、検査値など
  • 調剤データ
    患者の薬歴データ、患者指導テキストなど
  • 有害事象自発報告データ

医療データベースに集められたこういった各医療機関のデータは二次利用され、さらに高度かつ安全性の高い医療を提供するための研究に役立てられます。

医療データベースの特徴や目的

医療データベースの大きな特徴は、膨大で多様な安全情報を専門家が効率的かつ効果的に活用できるようになる点です。とくに医療データベースに集められたデータは、医薬品のリスクやベネフィットの迅速な評価のために活用されるケースが多いです。

現在の医療体制において、薬剤の副作用報告方法では安全対策への限界点があり、より良い対策の検討が必要として議論されております。

  • 医薬品を投与されている人数を把握できない
  • 原疾患と副作用の鑑別が難しい
  • 多剤との副作用発生頻度を比較できない
  • 安全対策措置前後での副作用発生頻度を比較できない
  • 医療機関が報告しない限り、そもそも副作用の存在がわからない

上記のように、少量のデータのみを用いた評価だと、薬の副作用や薬害について把握がしにくいのです。したがって、大規模医療情報データベースを構築し、副作用の発生割合や安全対策の効果を正しく評価することが大切になります。
アメリカやヨーロッパ諸国では、すでに数千万人規模の巨大なデータベースが運用されており、医薬品の安全性評価に活用されています。日本で諸外国と同様の安全評価をするためには、数百万人~1000万人規模のデータが必要だといわれており[注1]、国を挙げて医療データベースの基盤を整備する事業が進められているのが現状です。

[注1]厚生労働省:医療情報データベース基盤整備事業について[pdf]

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002za66-att/2r9852000002zdgp_1.pdf

医療データベースの種類

医療データベースはひとつの機関が運用しているものではなく、複数の機関が運用・提供している点が特徴的です。国内外には多種多様な医療データベースがありますが、ここでは代表的な種類について紹介しておきます。

  • NDB(ナショナルデータベース)
    厚生労働省が提供する、公益目的の医療データベース。欲しい情報を入手するには高いハードルがある。
  • MID-NET
    全国23の大病院から電子カルテなどを集めた、製造販売後の調査、もしくは公益性の高い研究のために用いられる医療データベース。
  • JADER
    有害事象自発報告医療データベース。
  • そのほかの医療データベース
    民間営利企業や教育研究機関が運営する医療データベース。

NDBやMID-NETといった公的機関の運営する医療データベースの利用には、厳しい条件やハードルがあります。したがって医療機関や製薬会社は、民間企業が提供する医療データベースも活用しながら研究を進めていくことになります。

医療データベースができるまでの流れ

医療データはこうしてできるの図

実際に医療データベースに情報提供をするときや集められた情報を活用するときは、どのような流れで情報が扱われていくのでしょうか。医療データベースができるまでの流れは、以下のとおりです。

  1. 医療機関が電子カルテやオーダリングを入力する
  2. 標準ストレージ化システムで情報をデータ化する
  3. 統合データソースに集約する
  4. 抽出システムで個人情報以外のデータを抽出する
  5. 抽出後の個票を複数施設統合処理システムで集計する
  6. 分析システムで分析を行う
  7. 必要に応じて集計・加工を行って活用する

医療データベースの利用者が取り扱えるのは、4段階目で行われる抽出後のデータのみです。このデータには氏名や住所、生年月日を含むすべての情報が含まれず、プライバシーが保護された匿名加工情報のみが抽出されている点が特徴です。

医療データの種類

一口に医療データといっても、実は3つの種類に分類することが可能です。ここからは、さらに医療データベースについて理解を深めるために、医療データの種類について詳しく見ていきましょう。

DPCデータ

DPCデータとは、「厚生労働大臣が指定する病院の病棟における療養に要する費用の額の算定方法」の5項第三号の規定にもとづき、厚生労働省が収集し管理する情報のことを指します。

簡単にいうと、診療情報の全国統一データのことを指し、指定された以下の6つのファイル等で構成されます。[注2]

  1. 様式1:簡易診療録情報
    簡易版の退院サマリ。患者の生年月日や入退院の日付、病名や治療内容などが記載されており、患者の概略を知れる資料です。
  2. 様式3:施設情報
    届け出されている入院基本料などに関する情報をまとめた資料です。
  3. 様式4:医科保険診療以外の診療情報
    先進医療や公費など、保険以外の診療の実施についてまとめた資料です。
  4. EF統合ファイル:医科点数表に基づいた出来高点数情報
    出来高による診療報酬の診療行為をどれだけ行ったかをまとめた資料です。データ識別番号や入退院の日付、診療区分などについて記載されています。
  5. Dファイル:包括レセプト情報
    厚生労働省が定めた、病名や診療内容から構成される「診断群分類点数表」を用いて算出した、患者の診療報酬請求情報をまとめた資料です。
  6. 外来EF統合ファイル
    外来診療患者の医科点数表に基づいた出来高点数や、外来の出来高レセプトの情報をまとめた資料です。

集められたデータは行政機関や自治体、公益法人などで活用されます。

なお、DPCの制度を取り入れている病院を、「DPC対象病院」といいます。対象になるためには、厚生労働省による審査を受け、必要な書類を提出することが必須条件です。

[注2]厚生労働省 DPCデータ提供事業者:DPCデータの提供について[pdf]

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000188034.pdf

レセプトデータ

レセプトデータとは、診療報酬明細の通称です。医療機関を受診した患者の傷病名や実施した医療行為の詳細、それにともなう請求の情報が記載されています。

病院だけではなく歯科医院や調剤薬局のデータも作成され、月に1度患者ごとにまとめられています。現在は90%以上のレセプトが電子化されていて[注3]、以前よりもデータとして活用しやすくなってきました。

[注3]実験医学online:レセプトデータ

https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/3649.html

電子カルテや検査データ

電子カルテや各種検査データも、医療データベースを構成する重要なデータです。傷病情報や処方・注射情報、検体検査情報やそのほか食事情報なども収集され、データベースに集約されます。より詳しく症状や治療の概要が把握できるため、医療データベースの活用には欠かせない情報です。

医療ビッグデータの活用例

最後に、医療データベースを含む医療ビッグデータの活用事例について見ていきましょう。

医療現場での活用

まず考えられるのが、医療データベースを医療現場で活用する事例です。実際、日本医師会がまとめた「日本の医療ビッグデータの利活用」によれば、医療データベースが病気の予測や早期発見に有効だということが示唆されています。[注4]

患者が医療機関で診察を受けたときは、問診情報や検査内容、処方薬剤名から分析された資料が作成されます。医療データベースから同じ症状を持つ患者のデータを集計することで、病名の特定や病気の進行具合の判断に役立てられるのです。
本人が気づかない症状がある場合も、検査した画像データから似たような状態の患者を探し、見落としてしまうようなわずかな異変にも対処可能です。医療データベースを医療現場で活用することで、患者の健康な生活を促進してQOLの向上に貢献できるでしょう。

[注4]日本医師会:日本の医療ビッグデータの利活用

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/jisedai_kiban/dai5/siryou7.pdf?_fsi=ubTniEkS

新薬開発

医療データベースは、新薬の開発にも役立てられます。

新薬を開発する際には、膨大なコストと時間のかかる開発プロセス、新薬を用いた治験データ収集など、多くのハードルが存在しています。こういった製薬会社の疫学研究や自社製品のフォーキャスティングなどにも、医療データベースが活用できるのです。

新薬になりうる研究対象物の特定や開発領域における症例の収集などが効率化され、より低コストで開発ができるよう手助けしてくれます。また、薬剤の副作用や薬害のリスクを評価し、安全性を高める際にも医療データベースの情報は役に立ちます。

医療データベースについてよくある質問

質問1:医療データベースにはどんなデータが含まれるのでしょうか?

請求書データ、医療機関データ(HIS/DPC/EMRデータ)、調剤データなどがございます。

質問2:医療データベースにはどのようなメリットがございますでしょうか?

医療データベースの大きな特徴は、膨大で多様な安全情報を専門家が効率的かつ効果的に活用できるようになる点です。とくに医療データベースに集められたデータは、医薬品のリスクやベネフィットの迅速な評価のために活用されるケースが多いです。

質問3:医療データベースとリアルワールドデータの違いはなんでしょうか?

医療データベースは医療機関や患者から集めた医療情報が保存されている統合データベースのことです。
対して、リアルワールドデータは臨床現場で得られる診療行為に基づく情報を集めた、医療ビッグデータのことです。

質問4:医療データベースから抽出されたデータについてのどのような活用法が考えられるでしょうか?

当社では医療データベースから抽出されたデータから様々な分析が可能です。サービスの詳細についてのお問い合わせは各種フォームよりご連絡をお願いいたします。

医療データベースは今後の医療分野と製薬分野を支える!

医療データベースは、医療機関や患者から集めた医療情報が保存されている統合データベースのことです。請求書データや医療機関データ、調剤データなどの情報を収集・分析することで、医療機関における診療行為や製薬会社における新薬開発に大いに役立ってくれるビッグデータです。

医療データベースは、公的機関のみならず民間企業からも提供されています。メディカル・データ・ビジョン株式会社はデータネットワークサービスで、医療・健康情報を集めています。ぜひご活用ください。

page top