コラム

【MedTech(メドテック)とは】企業のサービス事例、今後の発展性やメリットを解説#030

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メドテックとは、医療とテクノロジーを合わせた新しい言葉です。

テクノロジーの発達で、医療技術も大きな転換を迎えています。

メドテックを生かすことが、高齢化社会、医療経済問題、地域格差などの様々な問題を解決する糸口になると言われています。

この記事を読むことで、今後発展の見込まれるメドテック領域の理解を深めることができるでしょう。

メドテックとは

メドテックとは、medical(医療)technology(技術)を組み合わせた造語です。

technologyの関連用語である

  • バイオテクノロジー:再生医療や遺伝子組み換え技術
  • ハイテクノロジー:ロボティクスやAI(人工知能)、ビッグデータ
  • インフォメーションテクノロジー(IT):スマートフォンのアプリ、通信技術、モノのインターネットといわれるIoT技術

などが近年医療に役立てられていますが、それらの技術をメドテックと呼びます。

ヘルステックとは異なる

似た言葉に「ヘルステック」という言葉があります。

ヘルステックとは、health(健康)とtechnology(技術)を組み合わせた言葉です。

したがって、テクノロジーの利用対象は病気の予防、健康管理、診療後のアフターサービスとなります。

それに対して、メドテックはそれぞれのテクノロジーがどの疾患の診断・治療に対して効果があるかが明確になっています。

健康を維持するために利用するのがヘルステック、何かの病気の予防やリスク評価のために利用するのがメドテックということです。

目的には共通部分もありますが、基本的には異なる概念です。

メドテックが活躍する領域・サービス事例

メドテックが活躍する領域には様々なサービスがあり、その範囲は広いです。

テクノロジーと聞くと高度で難解な印象ですが、一般向けのアプリなど身近なシステムも多数含まれます。

この章では「誰に向けたサービスの提供か」という観点で分類してその実例を紹介します。

①医療従事者向け

  • 遠隔診療プラットフォーム
    スマートフォンから血圧などのデータを共有して、オンライン診療を提供するサービスです。服薬指導アプリなどがあります。
  • データ分析、AI支援
    電子カルテなどのビッグデータを分析するため、またはAIが学習するためのデータを提供します。
  • 再生医療
    再生医療とは、事故や病気で失われた身体の細胞を再生するための医療技術です。再生医療やその研究に必要な細胞や組織を提供します。
  • 医師ネットワーク
    医師のための情報交換システムです。専門科以外の情報を手に入れることができます。

②介護現場向け

  • 介護デバイス
    移乗、移動、排泄、入浴などを支援するロボットやシステムがあります。
  • 見守りサービス
    複数の要介護者を遠隔から見守るシステムです。

③消費者向け

  • オンライン医療相談、Web問診
    症状をチャットで伝えるなどして、病院を受診すべきかどうかを医師に相談できるシステムがあります。
    その他、オンラインで答えた問診情報をカルテに連携するシステムもあります。
  • 遺伝子検査サービス
    病気のリスクなどの遺伝的な傾向を検査できるサービスがあります。
  • ウェアラブルデバイス
    手首、腕、頭に装着して心拍や睡眠時間などの生体情報を記録するシステムです。
  • 治療用アプリ
    アプリを通じた「医師とのコミュニケーション」や「患者の行動変容促進」などにより、治療効果を高められます。
  • メンタルヘルス
    精神科の治療で重要な「認知行動療法」をデジタルで提供するアプリがあります。
    ※認知行動療法:自分の行動や考えを客観的に理解することで、よりよく生きる考え方や行動習慣を身につける治療

メドテックの発展が期待される4つの背景

この章では、メドテックの発展が期待されている4つの社会的背景をお伝えします。

①経済発展のため、医療産業が期待されている

医療産業は、日本の経済発展のために期待されている伸びしろのある分野です。

世界経済からしても、メドテック(=医療機器)市場は成長分野です。欧米では医療ベンチャーによる開発が発端となり、大手企業と連携する形で医療機器市場は拡大・成長してきました。

欧米と比較すると、日本は厳しい制約・制度やベンチャー投資が乏しいことから、医療ベンチャーの台頭が遅れている現状があり、医療機器産業の市場規模は世界全体の8%程度と、シェアとしては決して大きくない状況です。

そのような現状を受けて、医療産業を奨励するために政府は様々な施策を出しています。以下で、その具体事例を紹介します。

  • ベンチャー等支援戦略室
    厚生労働省が医療系ベンチャーの支援制度として設置しているのが「ベンチャー等支援戦略室」です。「保険医療水準のさらなる向上」と「経済成長への貢献」が目標とされています。
  • ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(JHeC)
    経産省は「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(JHeC)」という、医療分野で開発に取り組む個人やベンチャー企業を表彰して、社会における認知度向上を目的としたイベントを開催しています。
    また、対象となる個人やベンチャー企業と大企業・ベンチャーキャピタルなどとのビジネスマッチングも狙っています。
  • MEDISO・InnoHubの連携
    厚労省の窓口である「医療ベンチャー・トータルサポート事業(通称:MEDISO)」と経産省の窓口である「経産省ワンストップ窓口(通称:InnoHub)」との連携も図られています。
MEDISO・InnoHubの連携

このように、各省庁から支援策が打ち出されていて、国を挙げて医療産業に力を入れていると考えられます。

参考:医療系ベンチャー等の支援について(厚生労働省) ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(JHeC)2023(経済産業省)我が国医療機器・ヘルスケア産業における競争力調査 調査報告書

②医療経済のため、病気の早期発見が望まれる

ますます進む高齢化社会において医療経済を健全化するため、国民が健康でいる期間を伸ばす必要があります。

従来病気を発見するためには、レントゲンや採血の検査を行い、既にかかった病気を治すという方法をとっていました。

しかし、さらに早く病気になる前にハイリスクの患者を診断できれば、かかった病気の治療よりはるかに医療費の削減になります。

メドテックを用いることで、過去の莫大な医療データの蓄積から解析した結果をアプリやウェアラブルデバイスで一般の人が利用することができます。

つまり、病院で治療が必要になるより前の患者にアプローチしてリスク評価を行うことができるのです。

そのため、患者にも医療経済にも大きなメリットをもたらすといえます。

③オーダーメイド医療の必要性

医療の発達により、数十年前からガイドラインやエビデンスに基づく医療が一般的となりました。

しかし細かく見れば、本来個人の体質、生活習慣、遺伝的要因などに合わせた医療を提供することが理想的です。

近年テクノロジーが進化して、データベースが充実し、AIによる情報処理能力が大幅に向上しました。

その結果として、2000年代後半から遺伝子配列を解析するコストが急速に下がってきています。

現在では、遺伝子解析のアクセスが開かれ、一般の人が遺伝子配列の検査を受けられる時代になっています。

こうした背景から、標準化された医療からオーダーメイド医療への転換が始まっていると言えます。

④高齢化医療を支える人手が不足

加速する高齢化社会において、医療のニーズは高まる一方です。しかも、高齢者に対する医療、介護には医療従事者の人手と体力を必要とします。

また、医療従事者の数は地域格差があり、偏在による人手不足も深刻です。

こうした背景から、少ないリソースを効率的に配分する必要に迫られています。

メドテックを有効に使えば、ロボット技術による介護デバイスや遠隔医療でこれらの問題を解決できる可能性があります。

メドテックは医療をどう変えるのか

この章では、発展を続けているメドテックが「実際にどのように医療を変えるのか?」を4つの代表的な側面から解説します。

①インターネット上での医療サービスの提供

メドテックを生かすことにより、IoTを搭載した医療機器や診断機器を用いてインターネット上で情報の記録ができます。

web問診やバイタルサインをリアルタイムで共有することで、患者と医者の連携を支えているのです。

さらに医師と医師をつなぎ、専門家と情報を共有したり相談したりして診療を行うことができます。

5Gの通信技術で遅滞なくネットワークで接続することにより、オンライン診療のサービスを拡大したり、遠隔医療の質を向上させたりすることができます。

②自己管理の向上

メドテックには、病気の一次予防に寄与するサービスが多数あります。

一次予防とは「病気になる前にリスクとなる行動を減らすことで、病気を予防すること」です。特に生活習慣病は、患者本人の日常生活のあり方が病状に直結します。

例えば、行動変容を促すアプリやAIによる診断技術がありますが、これにより病気になって受診する前に、患者がアプリに従って行動を改められるようになります。

また、受診すべきかどうかをオンラインで医師に相談できるデバイスもあります。

つまり、自己管理によって病気になる人自体を減らす効果があるのです。

また、ウェアラブルデバイスを用いて病気になった後の増悪のリスク評価ができる技術もあります。

メドテックを使うことで、病気になる前もなった後も医師と連携を取った上で患者が自己管理できるようになるのです。

③新薬の開発や診療技術の向上

IoTやビッグデータを用いて膨大な情報を集め、人工知能により解析することで、人間だけの力で行うよりもさらに高度な診断治療ができるようになります。

例えば、医師だけでは見落としてしまうような点の診断を支援することにより、診断の正確性と効率性が向上することが考えられます。

また、ビッグデータと遺伝子工学やバイオテクノロジーとの融合で、新薬の開発に役立てることが期待されています。

従来、新薬の開発には膨大な時間とコストがかかっていました。

しかし、ビッグデータを分析した結果を活用すれば、開発にかかる時間を短縮できる可能性があります。

「新薬の候補となる化合物を探し出すためにAIにシミュレーションさせる」といった活用もされ始めています。

④ロボットによる効率化

手術用ロボットが一般化されて約10年が経ちましたが、ロボットを活用する医師の技術も熟練されて、手術の安全性と正確性が増しています。

それだけではなく、手術中の医師の腕を支える支援ロボットなど、医療者の負担を減らす機器も開発されています。

また、体力を必要とする介護やリハビリにロボットを使用することは非常に有効であると考えられていて、介護用ロボットの実用化は進む見込みです。

近い将来には超高速通信と組み合わせて、遠隔地の医師がロボットアームを使用して手術をすることもできるようになると考えられています。

メドテックに活用されているテクノロジー

この章では、メドテックに実際に利用されているテクノロジーと、それらの技術がどのように生かされているかをご紹介します。

AI

AIとは人工知能のことで「人間の知覚や知性を人工的に再現するもの」と表現できます。自己学習することが最大の特長です。

AIが得意としているのが、膨大なデータの解析と学習です。

人間の力では不可能なほどの精密な機械学習を生かして、難病治療や新薬の開発にも新たな知見が得られると期待されています。

また、医師の目で見落としてしまうほどの微細な異変をAIは読み取ることができます。

昨今、診断支援AIシステム、診療支援AIシステム市場はすでに活発になりつつあります。

癌研究に関する論文を大量に読み込ませたAIが、特殊な白血病患者の診断を10分でつけた事例もあります。

最近では、診療報酬改定で「AI技術の管理体制」が特定機能病院の施設要件に加えられるなど、臨床現場でAIを管理する体制の構築が進められています。

また、AI医療機器にはデータが必要不可欠となっておりデータベースの構築が急務です。AIを生かした医療を展開するための取り組みが、様々な面で加速しています。

AI

IoT

IoT(Internet of Things)とは、様々なモノをインターネットに接続してネットワークを用いて情報を共有する技術です。

それに関連したIoMT(Internet of Medical Things)とは、医療分野のモノに同様の機能を備えたシステムを指します。

IoMTの活用により、患者は医師などに対してリアルタイムで情報共有したり、医療従事者は医療機器の作動状況を逐一監視することができます。

患者にとってはリアルなデータを共有できて、医師との連絡が取りやすいため安心を得られます。医療従事者にとっても、患者や病院間での情報共有がスムーズになります。

また、取得したデータをAIで解析することにより、新たな発見がある可能性もあります。

さらに、医療機器のネットワークを用いて患者のデータを共有できることは遠隔医療やオンライン診療でも生かせるでしょう。

その他、ウェアラブルデバイスのデータを共有することにより、介護領域でも業務の効率化を図れると考えられます。

ロボット

日本では、もともとロボット工学が発達していました。産業用ロボットやロボットスーツでは世界トップのシェアを誇っており、日本の得意な分野であったといえます。

そのような技術を生かして、近年医療分野においては、リハビリ支援や移乗介助をする介護用ロボットや手術用ロボットがすでに広く活躍中です。

それだけでなく、リモートで手術を支援する医療用ロボットの実用化も進んでいます。

その他、医療や介護の現場で活用される装着型のサイボーグが開発されていたりと、ロボット技術は発展を続けています。

日本政府としても、2010年代後半からロボット産業に対する支援を進めています。それを受けて、現在推し進めているのはロボットとIT(ビッグデータやAIなど)を組み合わせた技術です。

もともとロボットは、あらかじめプログラムされた動作を正確に繰り返すことが特徴です。

これにAIを組み合わせることで、今後は事前に学習したデータから自己学習して正確に動くロボットが医療に生かされると考えられます。

5G

5Gは、近年実用化された移動通信手段です。従来の4Gと比較して超高速通信が可能で、同時に多数の端末と接続できるという特徴を持っています。

こういった特徴から、主に遅延なく正確で膨大な情報量のやり取りが必要とされる遠隔医療(オンライン診療)で生かされています。

オンライン診療システムの市場は、新型コロナウイルス感染症の拡大により接触を避ける診療に注目が集まったことがきっかけで、急速に拡大しています

また、5Gはオンライン診療における患者・医師間の通信の他に、医師間の通信にも有用です。具体的には、遠隔画像診断や遠隔ICUなど、専門医と非専門医を繋ぐ医療で活躍し始めています。

メドテック開発には膨大な医療データが必要

メドテック分野は今後更なる発展が予想され、その結果、多くの人が恩恵を受けるようになるでしょう。

メドテック分野の発展の鍵はビッグデータです。AIの機械学習にはビッグデータが必要不可欠であり、ビッグデータ解析がリスク予測や新薬の開発に繋がるからです。

当社メディカル・データ・ビジョンは、病院データの登録患者及び病院総数が4,232万人(2022年12月末現在)・474施設(同)と日本最大規模の診療データベースを保有しています。

そして、主に医療機関・製薬会社・アカデミアに向けて、データベースやデータ分析サービスを提供しています。

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