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単剤経口糖尿病薬で治療した2型糖尿病患者における臨床的慣性の有病率と予測因子RWD × 医学論文解説

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論文紹介

本研究は特定の薬剤の有効性、安全性を検討したものではなく、糖尿病の病態に合わせた適切な薬物治療がなされているかどうか(Clinical inertia:本文献では臨床的惰性と翻訳)を検討した研究です。DPCデータベースの多様な利活用について考えるヒントとなると思います。

単剤経口糖尿病薬で治療した2型糖尿病患者における臨床的慣性の有病率と予測因子

Ryo Suzuki, Kiyoyasu Kazumori, Tatsuya Usui, Masahiko Shinohara

題名Prevalence and predictors of clinical inertia in patients with type 2 diabetes who were treated with a single oral antidiabetic drug
著者Ryo Suzuki, Kiyoyasu Kazumori, Tatsuya Usui, Masahiko Shinohara
出典Journal of Diabetes Investigation
領域2型糖尿病

Prevalence and predictors of clinical inertia in patients with type 2 diabetes who were treated with a single oral antidiabetic drug – PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36229998/

背景

臨床的惰性(Clinical inertia)は、医療従事者が必要な時に治療を開始または強化しないこととして定義され、2型糖尿病患者の血糖目標達成における課題の1つである。

方法

本レトロスペクティブ研究では、DPC病院から収集した日本の医療データベースを用いて、経口抗糖尿病薬単剤で治療されている2型糖尿病患者における臨床的惰性について調査した。臨床的惰性の予測因子を分析し、治療強化までの時間を測定し、患者の血糖コントロールと腎機能を2年間モニターした。Index dateは、最初の経口糖尿病薬が処方されてから180(±60)日の間にHbA1c≧7.0%となった最初の日と定義した。

結果

臨床的惰性は35.3%の患者で確認された。Index dateから治療強化までの期間の中央値は75.5日であった。2年以内にHbA1c<7.0%を達成した患者の割合は、臨床的慣性がある場合は33.8%、臨床的惰性がない場合は47.9%であった。多変量ロジスティック回帰分析の結果、チャールソン併存疾患指数が高いこと及び受診間隔が6週間以上であることが臨床的惰性の起因リスクを有意に高め、ベースライン時の高脂血症とHbA1cが高いことがリスクを有意に低下させた。

結論

本研究では、経口抗糖尿病薬単剤による治療を受けた2型糖尿病患者における臨床的惰性が、長期的な血糖コントロールに持続的な影響を与える可能性が示された。今回の知見は、臨床的惰性に関係する患者の特徴や、診療ガイドラインに基づいた適切な治療を提供することの重要性を臨床医に伝えるものである。


前田 玲

日本薬剤疫学会 認定薬剤疫学家
外資系製薬会社にて20年以上医薬品安全性監視関連業務(RMP、使用成績調査等)に従事してきた。また業界活動を通して薬機法、RMP、GPSP、データベース・アウトカムバリデーション関連の通知類に対してコメントしてきた。現在、MDV社等の顧問として医薬品の安全性管理の観点より助言している。

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