コラム

「製薬マーケティング部門の今と昔」~売上データ分析からRWD~ EBM Inside 第3回

今回は製薬企業のマーケティング部門に焦点を当て、従来のマーケティング部門の活用状況から現在の活用状況までを具体例を交えてお話ください。

松林

匿名加工されたRWD活用サービスであるEBM事業がスタートした2007年頃の製薬企業のマーケティング部門では、適応疾患が1つの高脂血症の治療薬や、高血圧・糖尿病といった生活習慣病のブロックバスターと呼ばれる薬剤に対する分析が中心だったと思います。当時、分析に使われるデータソースとしては医薬品卸の販売データが中心で、そのカバー率の高さから、どこにどれだけ売れているのかを見ていました。極端な話クリニックレベルでの納入金額など、詳細な分析が可能でしたので、MRの配置をどこに集中させるかといった課題解決に役立っていました。

やはりこのような分析をするためには、データのカバー率が最も重要な要素になってきます。事業スタート当初のMDVのデータベースはまだ施設数15病院、実患者数100万人程度の規模でしたので、日本全国の傾向として一般化することは難しいと判断されていました。そのため、製薬企業のマーケティング部門での積極的な活用はなかなか進みませんでした。しかし、施設数500病院・実患者数1,000万人を超える規模になり、ある程度の代表性を示せるようになってからは、マーケティング担当者の方々からも徐々に引き合いが来るようになってきました。

松林

そして、分析のメインが、適応疾患が1つの生活習慣病治療薬剤の分析から、時代を経て徐々に生物学的製剤や抗がん剤などのように、複数の適応疾患を持つ薬剤への分析に移行してきました。

その頃、クライアントからお聞きした話によると、複数の部位に適応する抗がん剤の売り上げの推移を各領域別担当者からヒアリングして、その数字を足し上げてみると実際の売上げを上回り、数字が合わないという事例も起きていたそうです。

複数の適応疾患を持つ薬剤の分析が中心になることで、実際にどの疾患でどれぐらいの薬剤がどのように使用されているか、細かい内訳のデータを把握する必要性が生じ、より精緻な分析が必要とされるようになりました。マーケティング担当者にとってRWDを使用して見たい期間ごとに性別、併存疾患の有無、その他薬剤との併用状況や前後関係などの情報が使用できるようになったことは、分析の幅が拡がる一つの転機であったと感じています。

また、上市後の薬剤に対して当局から製薬企業に対し問い合わせが入り、迅速な対応が必要となるケースもあります。たとえば、「明後日までに指定された時期における小児の薬剤使用患者の情報を提出してほしい」といった急ぎの依頼もあります。従来のアンケートなどでは時間がかかる調査もRWDでは迅速な対応が可能です。そういった急な依頼も対応するうちに私たちのデータベースへのニーズも徐々に増えてきたと考えています。

さらに、こうしたケースから、いつでも当社に問い合わせる必要もなく、手元で迅速にデータを確認できるという意味でのニーズが、「MDV analyzer」というWEBツールの開発に至ったきっかけの一つにもなりました。

なるほど、マーケティング部門の方々も戦略を立てる上で、ターゲットとする主要な薬剤の変遷を考慮し、薬剤の使用実態まで分析する必要性が高まってきたので、MDVが持つRWDへの需要が増えていったということですね。
ただし、RWDの活用があまり進んでいなかった時期でも、複数の適応疾患を持つ薬剤は存在していました。当時、そのような薬剤に対してはどのような分析をしていたのでしょうか?

松林

もちろん、複数の適用疾患を持つ薬剤は以前から存在していました。そういった薬剤の分析に必要な情報収集は、主に医師へのアンケートなどが一般的だったのではないでしょうか。医師の薬剤使用傾向などをアンケート形式で収集する方法ですが、そのためには多大な時間と労力が必要でした。また、薬剤使用量などの詳細な数値は医師の記憶に頼る部分も大きく精度への不安もありました。
短時間で大量のデータ分析できる環境が整ったことで、より高精度な分析へのニーズが高まってきたのだと感じています。

では次に、マーケティング部門と一言で言っても、個別の製品を担当するプロダクトマネージャーや全体を統括するコマーシャルエクセレンスなど、さまざまな立場の方がいて、それぞれ異なる業務内容が存在していると思います。たとえば、プロダクトマネージャーには「ゴールはここであり、そのためにMDVのデータを使用してこのような集計をします。頻度は四半期ごとが主流です」であるとか、同様に、コマーシャルエクセレンスには「全体を広く見るためには、この種類の集計が重要で、頻度としては年に12回が多いです」といった具体的な提案がされる場合もあるかと思います。マーケティング部門の各御担当者に対して、ご提案する際に心がけていることを聞かせください。

松林

そうですね。まず、おっしゃる通りマーケティング部門内でも、製品ごとに担当者がいる場合や包括的な業務を担当するなど、様々な立場の方々が存在しています。他にも上市前後で部門がわかれていたり、製品ごとにマーケティング・PV・MAまで含めて1チームというような縦割りでの組織構造を作り上げているなど、製薬企業によってさまざまな体制があり、そのため、業務内容も異なる部分があります。さらにマーケティング部門の方々は、市場動向を把握し、自社製品の適切な位置づけやセグメンテーションをして、戦略を立案する役割も担っています。そのため実際に自社製品の使用状況を把握する場合、月ごとの患者数の推移、さらにそれが新規なのか切り替えなのか、使用日数、継続率などの動向を注視し、さらに、患者属性についても掘り下げて分析し、男女別や年齢別の傾向、さらには関連する疾患を持つ患者がどのような薬剤を使用しているかなどさまざまな要素が必要となるため、そうしたことを踏まえ、製薬企業での部門や担当の名称だけで判断せず、ミッションをお聞きして、お困りの部分を解決するために細かくニーズのヒアリングをして、どのように当社のデータを活用いただくのが一番良いかを提案するよう心掛けました。

メディカル・データ・ビジョン株式会社 EBM本部長 松林 大輔

松林 大輔

医事課職員を経て臨床検査会社の電子カルテ導入部門で7年半勤務。
2008年11月当社入社。2018年4月EBM推進部門長、2023年1月よりEBM本部長就任。当社入社以来、EBM事業に携わり、「MDV analyzer」など製薬向けソリューションの企画立案も行い、データ利活用サービスの拡大・推進に従事。

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