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薬物相互作用とは? 種類や実例〜ガイドライン・覚え方・検索ツールまで幅広く解説 #106

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 薬物相互作用は、医薬品の開発や適正使用の場面において極めて重要なテーマです。

 複数の薬剤や飲食物、患者背景の違いによって薬効や副作用が大きく変化するリスクがあるため、適切な理解と現場での判断は必要不可欠なものです。

 ここでは、企業や研究の立場から医薬品の研究開発に携わる方に向けて、薬物相互作用の基本概念から、代表的な種類、実例、ガイドライン、覚え方、薬物相互作用に関係するツールまでを体系的に整理しました。

薬物相互作用の概要

 まずは薬物相互作用の概要について、定義・基本概念と影響・リスクに分けて説明します。
基本的な内容を振り返って、どのようなことが重要になるのかを確認していきましょう。

薬物相互作用とは?(定義と基本概念)

 薬物相互作用とは、複数の薬剤や、薬剤と飲食物が同時に体内に存在することにより、互いの薬理作用や体内動態、副作用などに影響を与える現象のことです。
薬剤にはバイオテクノロジー応用医薬品や生物起源由来医薬品と呼ばれる生物薬品も含まれ、飲食物にはタバコやアルコール飲料、サプリメントなども含まれます。

 薬物相互作用はガイドラインや資料などでDDI(Drug-Drug Interaction)と統一されることが多いですが、厳密には薬剤と薬剤によって起こる薬物相互作用がDDI食品と医薬品の相互作用はFDI(Food-Drug interactions)と表記される場合があります。
薬物相互作用は薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用の2つに大別されますが、両者の詳細については後述します。に安全で効果的な医療が長い将来にわたって提供されることになります。

なぜ薬物相互作用が重要なのか?(影響とリスク)

 薬物相互作用は効果や副作用に大きく影響する可能性があるため、処方する立場としては正確な理解が欠かせません。
効果が増強したり中毒症状が発生したりする場合には、薬剤の併用だけでなく、薬剤と飲食物の組み合わせや、高齢者や妊婦など患者の背景によっても生じます。
てんかんのように、治療効果が得られないと発作の再発などにつながる疾患の場合は、薬物相互作用によって治療効果が減弱することで、症状悪化のリスクとなるでしょう。
過去には、未然に防ぐのが難しい薬物相互作用によって、副作用が強く出てしまい、死亡事例が報告されたこともあります。

 薬物相互作用を理解することで、このような薬効や副作用の増強を防ぐことや、治療効果の減弱による疾患の悪化リスクを下げることが可能です。販売後臨床試験は7条で、調査や試験ごとの記載を確認することも可能です。

薬物相互作用の種類

 上述の通り、一口に薬物相互作用といっても薬物動態学的な相互作用と、薬力学的な相互作用に分類されます。

 ある薬物の血中濃度が他の薬物の吸収・分布・代謝・排泄に影響を受けて発生する相互作用を薬物動態学的相互作用、血中濃度に左右されず互いに協調や拮抗し、作用が増強・減弱するものが薬力学(薬理学)的相互作用です。

 ここでは両者の違いについて、詳細に説明します。

薬物動態学的相互作用

薬物動態学的相互作用(Pharmacokinetic Interaction)とは、薬物の吸収(absorption)・分布(distribution/disposition)・代謝(metabolism)・排泄(excretion/elimination)、これらの頭文字を取ったADMEの過程において、他の薬物や食品などの影響を受け、血中濃度に変動が生じる相互作用を指します。

薬物相互作用全体の中でも大きな割合(約40%)を占めていると報告されているのが、代謝過程でのCYP(薬物代謝酵素=シトクロム P450)を介したものとなります。

以降はADMEの各段階に分けて、代表的な相互作用を紹介します。

  • 吸収段階での相互作用
    小腸壁のトランスポーターを介するもの、消化管内でのpH変化、吸着やキレート形成による相互作用により、薬物の吸収率が低下または上昇することがあります。
    【例】ニューキノロン系抗菌薬は金属カチオンを含む制酸剤の併用で吸収が低下することがある
  • 分布段階での相互作用
    吸収された薬剤は、主に血漿中のタンパク質であるアルブミンと結合して臓器に運ばれます。複数の薬剤を使用した場合はアルブミンへの結合に競合が生じて、結合力が弱い薬剤は遊離型が多くなることから、その作用が強く出てしまうことがあります。
    【例】抗凝固剤とNSAIDs:抗凝固剤のほうがアルブミンとの結合力が弱いため、作用が強く現れることがある
  • 代謝段階での相互作用
    肝臓で薬物を代謝するCYPの働きが阻害または誘導されると、薬物の血中濃度に影響が発生します。CYP3A4、CYP2C9、CYP2D6などが主要な分子種として知られています。
    【例】抗真菌薬の一種…CYP3A4の働きを阻害(CYP3A4基質薬の血中濃度を上昇させることがある)
    【例】抗菌薬の一種…CYP3A4の働きを誘導(CYP3A4基質薬の血中濃度を減少させることがある)
  • 排泄段階での相互作用
    腎排泄に関与するトランスポーターであるOAT(有機アニオントランスポーター)やMATE(多剤・毒性化合物排出輸送体)、P-gp(P-糖タンパク質)に対する阻害などで排泄が遅れると、薬効や毒性が増強されることがあります。
    【例】NSAIDsがOATを阻害し、ある免疫抑制剤の排泄を遅延させることがある

また、薬物動態学的相互作用は、基質薬の血中濃度がどのように変化するかある程度は予測可能でもあります。

近年ではCYPに対する寄与率(CR)や阻害率(IR)、誘導率(IC)を用いた相互作用の定量モデル(AUC変化予測式)が活用されています。

薬力学的相互作用

薬力学的相互作用(Pharmacodynamic Interaction)とは、薬物の血中濃度には変化がないにもかかわらず、薬理作用が増強したり、減弱が起こったりする相互作用のことです。

代表的な例としては以下が挙げられます。

  • β遮断薬と気管支拡張作用を有するβ2刺激薬の併用で気管支拡張作用の低下から喘息の悪化リスクが上昇
  • スルフォニル尿素系血糖降下薬とβ遮断薬の併用で低血糖作用の増強と回復遅延

代表的な薬物相互作用の実例

ここでは、薬物相互作用の実例について説明します。

薬物相互作用といっても、ADMEのどの段階で発生するか、薬力学的相互作用によるものか、トランスポーターを介して生じるものか、また、飲食物との関係で発生するものかなど、切り口はさまざまです。

【吸収段階の例】

  • ニューキノロン系抗菌薬×金属カチオンを含む制酸剤
    キレートの形成が起こりニューキノロン系抗菌薬の吸収が低下することがある
  • 分子標的薬×プロトンポンプ阻害剤
    プロトンポンプ阻害剤によって胃内pHが変化すると分子標的薬の吸収を低下させることがある
  • 消化機能異常治療剤×解熱鎮痛剤
    消化器異常治療剤により解熱鎮痛剤の吸収が促進され、解熱鎮痛剤の効果が増強される恐れがある

【分布段階の例】

  • 抗凝固薬×NSAIDs
    抗凝固薬のほうがNSAIDsよりもアルブミンとの結合力が弱いため、血液中の抗凝固薬の濃度が高くなり、その作用が強く現れることがある

【代謝段階の例】

  • 抗真菌薬
    CYP3A4の働きを阻害するものがあるため、CYP3A4により代謝される一部の脂質異常症治療剤や高血圧治療剤の血中濃度を上昇させることがある
  • 抗菌薬
    CYP3A4の働きを誘導するものがあるため、CYP3A4により代謝される薬剤の血中濃度を減少させることがある
  • 抗真菌薬、抗うつ薬
    CYP2D6の働きを阻害するものがあるため、CYP2D6により代謝される薬剤の血中濃度を上昇させることがある

【排泄段階の例】

  • NSAIDs×免疫抑制剤
    NSAIDsが腎尿細管のOATを阻害している免疫抑制剤の排泄を遅延させることがある
  • 抗不整脈薬×強心薬
    抗不整脈薬の一種が尿細管のP-gpを阻害して強心薬の腎排泄を抑制することがある

【薬力学的相互作用の例】

  • β遮断薬×β2刺激薬
    併用で同一レセプターで拮抗しβ2刺激薬の気管支拡張作用が低下、喘息の悪化リスクが上昇することがある
  • スルフォニル尿素系血糖降下薬×β遮断薬
    異なるレセプターへの作用だが、血糖を上昇させるエピネフリンの作用をβ遮断薬が阻害することから、スルフォニル尿素系血糖下降薬の作用が強くなり、低血糖作用の増強や低血糖からの回復抑制が起こることがある

【トランスポーターを介する相互作用の例】

  • 脂質異常症治療薬×免疫抑制剤
    ある免疫抑制剤がOATP1B1トランスポーターを阻害することで脂質異常症治療薬の肝臓への取り込みが阻害され、その血中濃度が上昇することがある。

    実例を紹介するために記載を分けていますが、トランスポーターを介した相互作用は、薬物動態学的相互作用に含まれます。・

【飲食物との影響で起こる相互作用の例】

  • 抗凝固薬×納豆/緑黄色野菜
    納豆や緑黄色野菜に含まれるビタミンKが抗凝固薬の作用を減弱する可能性がある(薬力学的相互作用にも該当する)
  • 抗てんかん薬×メラトニン/アルコール/カフェイン
    アルコールやメラトニンはある抗てんかん薬の副作用を強め、カフェインはその作用を減弱する可能性がある
  • カルシウム拮抗薬×グレープフルーツジュース
    グレープフルーツが小腸のCYP3A4を阻害するためカルシウム拮抗薬の血中濃度が上昇する可能性がある
  • 抗悪性腫瘍薬×抗ウイルス薬
    抗ウイルス薬の代謝物が抗悪性腫瘍薬の代謝酵素を阻害するため、抗悪性腫瘍薬の血中濃度が持続し、重篤な副作用が起こることがある

薬物相互作用に関するガイドライン

 薬物相互作用と強い関連があるガイドラインには「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」が挙げられます。
 こちらは厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課から2018年7月、薬物相互作用による患者への不利益を避けるため現時点で科学的に妥当と考えられる方法を提示するために発出されました。
記載されている内容は、吸収・組織移行や体内分布・代謝・排泄における薬物相互作用、トランスポーターを介した薬物相互作用、臨床薬物相互作用試験に関する事項など、多岐にわたります。
海外のガイドラインでは、アメリカ食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)から発出されている薬物相互作用に関するガイドラインも存在します。
日本の医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドラインも、FDAやEMAのガイドラインを参考にして作成されました。

 また、ICH(医薬品規制調和国際会議:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)のガイドラインでは、安全性情報の収集や取り扱いについて規定されています。
治験中や承認後に得られる薬物相互作用の情報も安全性情報に該当するため、ICHガイドラインも薬物相互作用と関係するガイドラインの一つです。

薬物相互作用のわかりやすい覚え方

 薬物相互作用は全てを暗記することよりも、なぜ起きるのかというメカニズムを理解し、共通するパターンで整理することが大切です。
実際には薬物相互作用の情報量は膨大であり、添付文書にも書かれていない組み合わせも存在します。
新薬の登場も続く中で、全てを記憶するのは現実的ではないといえるでしょう。

 例えば、CYPなどの代謝酵素、OAT/P-gp/MATEなどのトランスポーター、薬理作用の拮抗や増強、これらを意識した上で分類などの情報を構造的に捉えると、未知の薬剤にも応用可能な判断力が身につきます。
薬の量が少しでも増減すると生命や人生に大きな影響を与えるリスクがある治療域の狭い薬、抗凝固薬や高血圧治療薬など血中濃度を一定に保つべき薬なども、覚えておくと判断に役立つでしょう。

 また、高齢者であれば腎機能・肝機能・心機能の低下など、妊娠中なら血漿容積の増加により薬物の分布容積が増加していることや胎児への影響など、患者背景により考慮すべき傾向が挙げられます。
さまざまな要素の掛け合わせを把握しておくことで、より適切な判断に近づけることができるでしょう。

薬物相互作用を検索できるツール

 薬物相互作用を検索できる医薬品情報のデータベースには、有料・無料を問わず、国内外でさまざまなサービスが普及しています。
 医療機関や製薬企業向けの有料サービスが企業で運営されており、また、抗がん剤や抗ウイルス薬など特定の薬に関する薬物相互作用を検索できるデータベースが海外の大学から無料で公開されています。
 海外企業により運営されているデータベースが多いですが、国内向けに日本語のサービスとして運営されているものもあるため、活用できる場面があるでしょう。
 国内で添付文書から薬物相互作用を調べるには、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医療用医薬品の情報検索ページ※1や、JAPICの医薬品情報ナビ※2などが挙げられます。
日本医療薬学会からは「代謝酵素とトランスポーターを介する相互作用において留意すべき薬物のリスト※3」で一覧が公開されているため、こちらも判断のサポートに活用が可能です。

※1 参照:医療用医薬品 情報検索ページ(PMDA)
※2 参照:医薬品情報ナビ(JAPIC)
※3 参照:代謝酵素とトランスポーターを介する相互作用において留意すべき薬物のリスト(日本医療薬学会)

まとめ

 薬物相互作用は、薬剤の効果や副作用に大きな影響を及ぼすものです。
薬剤だけでなく飲食物によっても生じることがあり、未然に防ぐことは容易ではありませんが、臨床上無視できないリスクを生じることがあります。
適切に対応するためには、構造的な理解や公開されているデータベースなどを活用することが大切です。
 単なる暗記ではなく、根本的な理解と構造化された知識により、実務における安全性確保に貢献できるでしょう。

このページで薬物相互作用の基本や実例を整理し、実務や研究に役立てる一助となれば幸いです。


【監修者】岡本妃香里

2014年に薬学部薬学科を卒業し、薬剤師の資格を取得。大手ドラッグストアに就職し、調剤やOTC販売を経験する。2018年にライター活動を開始。現在は医薬品や化粧品、健康食品、美容医療など健康と美に関する正しい情報を発信中。医療ライターとしてさまざまなジャンルの記事執筆している。

【執筆者】吉村友希

医薬品開発職を経て医療ライターに転身。疾患・DX/AI・医療広告・薬機法など、医療と健康に特化した記事制作を担当。英語論文を活用した執筆やSEO対策も可能。YMAA認証取得。

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