医療業界における品質保証(QA)とは?業務内容・基準・キャリアを徹底解説 #109

2025.09.17
2025.09.17
医薬品や医療機器の品質を守るうえで中心的な役割を果たすのが、品質保証(QA)という業務です。
製品が患者のもとに届くまでには製造・出荷・情報管理など、数多くの工程があり、それらすべてが適正に実施されて初めて「安全かつ有効な製品」として社会に提供されます。
ここでは、品質保証の基本的な考え方や法規制の枠組み、GQP・GMPなどの関連制度だけでなく、品質保証職(QA職)の業務内容やキャリア、やりがいについてもわかりやすく解説します。
医療分野での品質保証の実務やキャリアに関心がある方、品質保証職を目指している方にとって、参考になる内容です。
医療分野における品質保証(QA)とは
医療分野における「品質保証(Quality Assurance:QA)」とは、医薬品や医療機器などの製品が、常に一定の品質水準を満たし、安全かつ有効であることを保証するための取り組みを指します。
身体に大きな影響を与える医薬品や医療機器等の品質を保つことは、製造販売業者が必ず守るべきことです。
そして、製品が承認内容通りに製造・管理され、品質に問題ない状態で市場に供給されていることを確保するために、GQP省令が定められています。
GQP省令はGood Quality Practiceの略称で、正式には「医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品の品質管理の基準に関する省令」と呼ばれるものです。
医薬品等の製造販売業者が遵守すべき品質管理の基準を定めた法令であり、その中で品質保証に関する具体的な体制や責任、文書管理などが規定されています。
品質保証の役割は、主にGQPに基づいて製品の品質を確保することにあります。
企業が製造販売業許可を得て、かつ継続的に製品を市場に供給するための必須条件となっています。
品質保証の重要性と役割
もし品質保証が適切でなければ、不良品の市場流通や重大な副作用の見落としにつながるため、患者の健康被害が生じたり、企業においてはその社会的信用を失ったりするおそれがあります。
GQP省令に基づき、どのような基準や手順で製造販売における品質の確認をすれば良いのか、出荷時や自己点検の方法、手順書の内容など、技術的な詳細が明記されています。
品質保証は、患者の安全を守る砦であり、企業が活動を継続するにあたって、その信頼を支える必要不可欠な基盤です。
品質保証に関わる法規制・基準・ガイドライン
医療分野における品質保証を確実に実施するためには、法令や省令、ガイドラインに基づく明確な基準のもとで活動することが求められます。
特に日本では、「医薬品医療機器等法(薬機法)」を軸に、GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)、GQP(医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品の品質管理の基準に関する省令)、QMS(品質マネジメントシステム)、GPSP(医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令)といった制度が整備されており、それぞれの基準が品質保証体制の構築と運用を支えています。待されます。
医薬品医療機器等法
医薬品医療機器等法(薬機法)は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」のことです。
薬機法では、医薬品・医療機器・医薬部外品・化粧品・再生医療等製品を対象に、これらの品質や有効性及び安全性の確保、保健衛生の向上を目的に、許認可や要件などが決められています。
薬機法の内容をより技術的にしたものとして薬機法施行令があり、その次にGQP省令やGMP省令などの薬機法施行規則が存在しています。
具体的な内容としては、製造販売業者や製造業者に対し、厚生労働省令で定められた省令などの品質管理基準への適合を義務付けており、違反があれば製造販売の承認が得られないことなどが定められています。
品質保証に限らず、医薬品や医療機器等に関係する業務は、薬機法を遵守することを前提に運用されます。
GMP(Good Manufacturing Practice)
GMPは、「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GMP省令)」のことです。
製造所における製品の製造及び品質管理を適正に実施するための基準であり、GMPの原則は以下の3点に集約されます。
- 人的ミスの最小化…手順書の明確化、教育訓練や記録の徹底
- 製品の汚染や品質低下の防止…交差汚染や微生物増加の防止、汚染された水や空気の管理
- より高度な品質保証システムの設計…重要工程のバリデーション、設備管理、責任体制の明確化
製造業者は、GMPに従って製造管理や品質管理をする必要があり、製造販売業者は製造販売の承認を得るために、GMPに基づいた品質管理等を製造所に実施させなければなりません。
GQP(Good Quality Practice)
GQPは、製造販売業者が市場に出荷する製品の品質を確保するための管理基準のことです。
GMPが製造所内で生じる製剤や原料供給などの品質管理を対象とするのに対し、GQPは品質保証のためにできることを製造販売業者の視点から定めています。
具体的には以下のような業務を、製造販売業者が適正に実施するように求めています。
- 市場への出荷の管理
- 製造業者等に対する管理監督
- 品質等に関する情報や不良品等の処理
- 回収処理
- 自己点検
- 教育訓練
- 医薬品の貯蔵等の管理
- 文書や記録の管理など
QMS(Quality Management System)
QMSは品質マネジメントシステムのことです。
医薬品や医療機器の分野に限定したものではなく、似た意味もしくは同義の言葉としてISO 9001という規格の名称が用いられることや、QMS体制やQMS体制省令と表記されることもあります。
例えば、医療機器及び体外診断用医薬品の製造販売業者や登録製造所に対しては、製造管理や品質管理の体制がQMSに適合しているかどうか、PMDAなどにより調査されています。
薬機法ではGQPやGMPと並列して説明され、適合性がないと判断された場合は製造販売の許可や更新ができません。
GPSP
GPSP(Good Post-Marketing Study Practice)は「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」のことであり、医薬品や医療機器について、承認後の使用実態に基づく安全性・有効性の評価を目的とした調査を適正に実施するための基準です。
製造販売後調査には、「使用成績調査」「製造販売後臨床試験」「データベース調査」などがあり、いずれも承認後の医薬品が実臨床でどのように使用され、どのような有害事象が発生するかなどを把握するために重要です。
GPSP省令では、以下のような項目が規定されています。
- 製造販売後調査等の業務手順書の作成
- 製造販売後調査等管理責任者の設置と役割
- 使用成績調査実施計画書
- データベース調査計画書
- 自己点検
- 教育訓練
- 業務委託の可否と手続き
GPSPは、GVP(Good Vigilance Practice)と併せて、製造販売後の品質保証と安全性確保の両輪を担う制度です。
GVPが安全性情報の収集・評価体制に関する基準であるのに対し、GPSPは調査・試験の実施そのものを対象としています。
製造販売後調査については以下のページにて詳しく解説しているため、関心のある方はご覧ください。
品質保証職の具体的な業務例
医薬品等の品質保証を実現するため、品質保証職は多岐にわたる業務を担っています。
ここでは、品質保証職が日常的に行う代表的な業務について解説します。
SOPの作成・改訂
SOP(Standard Operating Procedure:標準作業手順書)は、品質管理業務を適正かつ効率的に実施するために必要な文書です。
GQP省令第6条では、品質管理業務に関する手順を文書(品質管理業務手順書)として明確に定めることが義務付けられています。
手順書には、以下のような内容が記載されます。
- 市場への出荷の管理に関する手順
- 適正な製造管理及び品質管理の確保に関する手順
- 品質等に関する情報及び品質不良等の処理に関する手順
- 回収処理に関する手順
- 自己点検に関する手順
- 教育訓練に関する手順
- 医薬品の貯蔵等の管理に関する手順
- 文書及び記録の管理に関する手順
- 安全管理統括部門その他の品質管理業務に関係する部門又は責任者との相互の連携に関する手順
- その他必要な手順
都道府県で手順書のモデルとなるファイルが公開されているため、気になる方は確認してみると良いでしょう。
教育訓練の実施と記録管理
GQP省令第14条では、品質管理業務に従事する者に対して、必要な教育訓練を計画的に実施し、その記録を適切に管理することが求められています。
手順書を作るだけでなく、その内容を理解し、適切に業務を進められる責任者や従業員がいなければなりません。
教育訓練もただ実施するだけでなく、実施したあとに筆記テストにより理解度を評価し、問題なく業務が遂行されているかを確認することも必要です。
変更管理(Change Control)
製品の品質に関係する製造所の変更管理が適切かどうかや、そのような変更が適切に連絡されているか、また、変更が起こっても品質に問題がないか等を確認する業務が、製造販売業者がする変更管理です。
GQP省令の第10条では、品質に影響を与えるおそれのある製造方法や試験検査方法等の変更があった場合の対応について規定されています。
このような連絡を製造販売業者が製造業者等から受けた場合は、品質管理手順書に基づいて、連絡内容の評価や品質の影響を確認し、場合によっては実地調査をして、それらについて記録を作成する必要があります。
異常/逸脱報告・処理(Deviation)
逸脱とは、あらかじめ定められた手順や基準からの外れを指すものです。
品質保証においては、もし逸脱が放置されれば、品質や安全性に重大な影響を与えるおそれがあります。
例えば、GQP省令第9条では出荷の際に手順からの逸脱があった場合には、製造業者から品質保証責任者に対して報告があるため、品質保証責任者は出荷の可否について判断する必要があることが定められています。
また、逸脱と関連する対応としてGQP省令第11条にある品質不良等の処理に関して明確な手順が挙げられます。
実際に医薬品の品質に関する情報や品質不良のおそれがある場合には、原因の究明や必要な措置を講じること、記録に残すことなど、どのような対応をすべきかが明記されています。
CAPA(是正・予防措置)
CAPA(Corrective Action and Preventive Action)は、逸脱や不具合の発生後の「是正措置」と、将来的な再発防止のために実施する「予防措置」を含む活動です。
GQP省令には明示されていませんが、上述の逸脱が発生したときや第13条の自己点検に関連して、CAPAの対応が事実上求められます。
製造工程で高い品質を保持するためにも、一時的な対応ではなく、仕組みから改善させるために、CAPAは必要なものです。
出荷判定業務
出荷判定は、製品がすべての品質基準を満たしていることを確認したうえで、市場に出荷するか否かを決定する重要な業務です。
GQP省令では第9条により、製造販売業者は市場出荷に関する管理をすることが義務付けられており、出荷判定者については品質保証責任者以外や製造業者に委託する場合などに分けて説明がされています。
製品の管理の結果を適正に評価し、品質保証責任者の判断のもとでロットごとに出荷可否が決定されます。
外部監査・内部監査対応
GQP省令第13条では「自己点検」が規定されており、これは内部監査に相当します。また、実務上は外部監査もGQP適合性維持のために実施されることがあります。
GMP省令14条においては、原料の品質確保のために品質保証を担当する組織が評価や選定の業務をする手順について明記されています。
品質管理業務は客観的な視点が大事であり、内部監査の場合は品質管理業務に直接携わっている者が監査業務をするのは適切でなく、外部機関からの監査もあります。
どちらの監査においても、企業の品質保証を担当する者がその対応をする必要があります。
品質保証職のキャリアとやりがい
品質保証職は、医薬品や医療機器の品質と安全性を守る要として、企業の信頼を支える重要な役割を担います。
QC(品質管理)や製造、臨床関連、製薬業界などの経験がある方や、薬剤師資格の保持者、GxP(一般的グッドプラクティス)の実務経験者であれば、品質保証職へのキャリアチェンジの可能性があります。
またQA職からは、薬事職や製造管理職、監査担当などにキャリアチェンジできる場合があります。
人の命に関わり、自身の判断が企業の信頼へと直結します。また、法令知識や技術知識の両方を活かせるのもやりがいに感じる方が多いでしょう。
まとめ
品質保証は、医薬品や医療機器の品質・安全性を確保するために不可欠な業務です。
実際の業務では、GQP省令やそれと関連のあるGMP省令のような薬機法に関係する法令をもとに、医薬品や医療機器などの品質を確保します。
医療分野における品質保証は、単なる技術的作業ではなく、人の健康と命に直接関わる仕事です。
法令に基づいた確実な運用と継続的な改善を通じて、社会から企業に対する信頼を築き上げていくこと、守っていくことが品質保証職の役割といえるでしょう。

【監修者】岡本妃香里
2014年に薬学部薬学科を卒業し、薬剤師の資格を取得。大手ドラッグストアに就職し、調剤やOTC販売を経験する。2018年にライター活動を開始。現在は医薬品や化粧品、健康食品、美容医療など健康と美に関する正しい情報を発信中。医療ライターとしてさまざまなジャンルの記事執筆している。
【執筆者】吉村友希
医薬品開発職を経て医療ライターに転身。疾患・DX/AI・医療広告・薬機法など、医療と健康に特化した記事制作を担当。英語論文を活用した執筆やSEO対策も可能。YMAA認証取得。