BIツールとは?機能や目的・メリットや活用事例をわかりやすく紹介 #121
2025.11.15
2025.11.19
近年、AIの発展をはじめとする技術革新により、企業や医療機関などのさまざまな組織でデータの利活用が注目を集めています。
膨大な情報は蓄積するだけではなく、それらをいかに分析し、意思決定や業務改善につなげるかが重要であり、こうした背景の中で経営戦略や現場の効率化を支援するのが「BIツール」です。
ここでは、BIツールの役割や仕組み、活用事例、導入のポイントまでを整理し、データの利活用を検討する際に役立つ視点などについて解説します。
目次
BIツールとは
BIツール(Business Intelligence ツール:ビジネスインテリジェンスツール)とは、組織内に蓄積された膨大なデータを収集・統合し、統計的な分析やデータの可視化を通じて意思決定を支援するためのシステムです。
会計・売上・人事・顧客情報など、多様なシステムに分散しているデータをまとめ、グラフやダッシュボードの形としてわかりやすく提示できるのが特徴です。
従来は担当者がExcelなどを使い手作業で集計・分析をしていましたが、データ量が膨大になり、時間・労力・人的ミスが発生しやすいという課題がありました。
BIツールの活用で、より迅速かつ正確な分析が可能となります。
BIツールの役割・使用する目的
BIツールの役割は、データ集計や客観的なデータ分析だけでなく、その先に主な目的があります。
BIツールは「蓄積したデータから価値を引き出す」ことに主眼を置いたツールといえるでしょう。
・意思決定の迅速化
素早く最新の数値や傾向を把握できるため、経営や現場での判断を素早くすることが可能です。
・業務の効率化
複数の部署やシステムに分散するデータを統合することで、重複作業や二次加工の手間を省くことが可能です。
・将来予測と改善
過去データの傾向をもとにシミュレーションや予測を実施し、経営戦略や業務改善につなげられる可能性があります。
BIツールのメリット・デメリット
続いてBIツールのメリットとデメリットについて説明します。
便利で強力なBIツールですが、ただ導入すれば良いのではなく、課題についても理解して、自社に合うのかどうかを判断することが大切です。業務効率化が進められており、また、過去の膨大な治験データを学習した試験結果予測で、失敗を未然に防ぐことにもつながっています。
BIツールのメリット
医療分野は人の生命や健康だけでなく、大きな資金も動きやすく、また、競争優位性の観点からは情報量やその活用の仕方がキーとなる業界です。
そのため、医療分野においてBIツールを活用できれば、大量のデータから客観的な情報を読み取るサポートし、迅速で正しい決断を促す点において大きなメリットをもたらします。
BIツールによりデータを適切に整理できれば、データから新たな価値を見出すことや、組織全体を正しく素早く動かすことが期待されます。
- 情報の取り扱いの効率化
患者情報の収集、集計、分析、それらからのレポート作成などを自動化することができます。 - データの可視化が簡便になる
ダッシュボードやグラフで直感的に状況を把握でき、社内や医療機関との共有が容易です。 - 意思決定のスピードアップ
医療データのキャッチアップが速くなるため、意思決定もスピーディーになります。 - 活用範囲の広さ
製薬企業の経営層から医療機関の現場スタッフまで、ツールを利用できる人が多いのもメリットの一つです。
BIツールのデメリット
一方で、医療分野においてのデメリットとしては、BIツールの使用に慣れたつもりになったり、機能に頼りすぎて思考が制限されたりすることが挙げられます。
依存しすぎてツール内で何が起こっているのかを見落とすと、時に大きな間違いをすることや、柔軟な思考ができなくなることなどもあるでしょう。
専門性の高い分野であるからこそ、どのデータをどう取り扱って目の前の結果が出力されたのか、常に理解しておく必要があります。
特に、BIツールの担当者の引き継ぎがされる際には、専門的なコミュニケーションの難しさなどから、大切な考え方や捉え方までが引き継がれないリスクも生じます。
依存しすぎず、常に原理や目的を見失わないことが重要です。
また、一般的なBIツールのデメリットは以下の通りです。
導入時のコストや導入後の運用体制、導入からどこをゴールとするかなどを検討する必要があるでしょう。
- 費用面の負担
初期導入費用や月額のサポート契約が高額になる傾向にあります。セキュリティ性を重視する医療分野だと、クラウド型よりも高額なオンプレミス型のほうが推奨されるケースもあります。 - 専門知識の必要性
導入時はシステム連携や設定作業、導入後はデータリテラシーや統計知識を持つ人材がいないと、分析結果を十分に活用できない恐れがあります。 - 依存リスク
ツールに頼りすぎると、データがない状態や分析できない状態での意思決定が進まなくなるリスクがあります。
BIツールがデータ分析をする際の機能
ここからは、BIツールがどのような形でデータ分析に取り組むのかを説明します。
OLAP、データマイニング、プランニング、それぞれの機能について、順に確認していきましょう。
OLAP(オンライン分析処理)
OLAP(Online Analytical Processing:オンライン分析処理)とは、さまざまな角度からデータを切り替え、必要な情報を抽出して分析する仕組みです。
一つのデータを多面的に眺めることで、新しい気づきを得られるのが特徴です。
OLAPは『オーラップ』と読みます。
例えば、医薬品別、エリア別、顧客別など、複数の視点で数字を比較することができます。
医療分野では、厚生労働科学研究費補助金を用いて、個人のデータではなく集計データを表示させるデータウェアハウスの発展にOLAPが活用されたことがあります。
具体的には、以下のような操作が可能です。
- ドリルダウン
全体や概要的な大きな要素から、詳細な小さいレベルに掘り下げていく方法です。 - ドリルアップ
ドリルダウンの反対に、詳細なデータから大きなデータへ切り替えて分析する手法です。 - スライス&ダイス
特定の条件を選んで固定したままデータを切り出したり、他の軸と組み合わせて分析したりする方法です。
また、一口にOLAPといっても、MOLAP、ROLAP、HOLAPなど、細分化すると複数の種類が存在します。
そのため、企業の状態や目的に合わせて手法を選ぶことが可能です。
データマイニング
データマイニングは、大量のデータの中から法則性や傾向を見つけ出す分析方法です。
分析結果を理解するには専門知識が必要ですが、BIツールによって可視化が容易になり、専門外の人でも結果を把握しやすくなっています。
例えば、ネットショップの利用率に天気が関係していることがわかりました。 製薬業界においても、ある薬剤の使用が減っている場合、原因を見つけ出して改善策を考えることなどの応用が可能でしょう。
プランニング
プランニングは、データをもとに未来をシミュレーションし、計画立案をサポートする機能です。
例えば、売上データを活用して価格が変化した場合の試算予測をすることができるため、製薬企業や医療機関の予算の取り決めや経営判断などに活用できます。
プランニングにより、経営判断や施策の精度を高めることができるでしょう。
BIツールのシーンごとの活用事例
ここでは実際のBIツールの活用事例について紹介します。
データ集計、経営状況分析、営業分析、人事データ分析、医療データ分析、それぞれの場面に分けて説明します。
データ集計
従来はExcelなどでデータ集計をすることが一般的でしたが、BIツールを導入すれば、各部署のデータベースと自動的に連携し、素早く最新の数値を集計できます。
例えば、患者数や属性、支出や収益、勤怠データや人員配置などのデータ集計が可能です。 集計の正確性も高まり、人的ミスを大幅に削減できる点も大きなメリットです。
経営状況分析
BIツールにより、経営に関わる財務情報や稼働率、人員配置といった要素を横断的に分析できるため、組織の現状を多角的に把握できます。
例えば、病院経営であれば、診療報酬や病床稼働率を数値化して可視化し、改善すべきポイントを素早く見つけられます。
製薬企業においては、売上・利益率の推移をシミュレーションし、投資判断や戦略立案に役立てることができるでしょう。
営業分析
営業分野やマーケティングにおいて、BIツールは顧客データ、販売実績、商談履歴などを管理できるため、営業活動の改善につなげられます。
例えば、薬剤ごとの売上推移データを分析して次に販売すべきものを予想したり、営業担当者ごとの成果を可視化して人材育成や評価に役立てたりすることなどが可能です。
人事データ分析
人事部門では、従業員の勤怠や評価、配置といったデータを活用することで、人材のマネジメントが可能です。
従来は担当者の経験や勘に依存する部分が多かった人事的な判断も、BIツールを使えばデータに基づいた客観的な判断が可能となり、判断に伴う心理的なストレスなども軽減されることが期待されます。
具体的には、勤務時間や残業時間を時系列で分析して働きやすい環境を整えることや、人事評価やスキルを関連させて効果的な研修をすることが可能です。
医療データ分析
製薬企業においてBIツールは、医薬品の処方状況を分析して市場での競合関係を把握することや、臨床データの解析で新薬の有効性や副作用の傾向を抽出することに役立てられます。
医療機関の視点では、病床稼働率の把握による効果的な患者受け入れ、診療報酬や検査・手術データの集計による経営改善などが考えられます。
また、地域では、住民アンケートなどのデータをもとに、医療や福祉に関する課題を把握したり、地域包括ケアや行政計画の改善に活用したりすることが可能です。
AIが発展する中でもBIツールが重要な理由
結論としては、AIとBIツールは競合関係にあるのではなく、相互補完の関係にあるといえます。
近年、AIによる自動予測や解析が注目されていますが、その結果を業務に活かすには、組織全体が理解し共有できる形で情報を加工・提示する必要があり、そのために人の手が必要です。
その加工や提示において、人の手をサポートするのがBIツールだといえるでしょう。
また、AIやデータ活用が盛んになっても、データ活用ができる人材の不足を解決することにはならないため、AIやデータを実用性のある形に変換するために、BIツールが必要になることが考えられます。
特に医療分野では、患者への影響、情報の更新速度、経済的なリスクなどが大きいため、大量のデータを適切かつ迅速に扱うことにおいて、AIとBIツールの両方を駆使することで新たな価値の創出がより促されるでしょう。
BIツールを選ぶ際のポイント
BIツールは多種多様であり、特徴や強みもさまざまです。
導入の際は以下の4点を参考に、自社の目的や環境に合った製品を検討することをおすすめします。
- 価格帯
初期費用やライセンス費用だけでなく、保守・サポートも含めてコストを把握する必要があります。 - 使用分野
用途によってBIツールに求められる機能が異なるため、ツールの強みと導入の目的がマッチしているものを選ぶと良いでしょう。 - 導入のしやすさ
既存システムとの連携方法や、取り扱い時にどれほどの専門知識を要するかを確認しておきましょう。 - 操作性
操作しやすい仕様か、また、カスタマイズ性があるか、こちらも自社の目的と照らし合わせて確認しましょう。
以下で詳しく説明します。
① 価格帯
BIツールの価格帯はユーザー企業の規模や希望により一概には言えませんが、オンプレミス型かクラウド型かによって大きく変動します。
価格が高いのがオンプレミス型で、初期費用で数十万円〜数百万円、以降に月額費用が数千円〜数万円であることが多いでしょう。
オンプレミス型は自社でサーバーなどの用意をするため、カスタマイズの自由度やセキュリティレベルが高い一方、費用も高額になる傾向があります。
一方、クラウド型は初期費用がなく、月額費用も数千円ほどで済む場合が一般的です。
クラウド型はサーバーなどの準備は不要で、パソコンなどの端末からWebでアクセスできるため、費用も少なく済みます。
他に価格を決める要素としては、BIツールの機能の多さやユーザーライセンスの契約数などによっても変動します。
初期費用だけでなく、月額で必要になるランニングコスト、BIツールを扱う人材の人件費、導入後にBIツールで何をして、何をゴールとするか、導入の効果が費用と釣り合うか、また、解約する場合に必要になることなども理解してから、導入に進みましょう。 BIツールの提供社には問い合わせを受け付けている企業が多く、中には無料で使用できるツールもあるため、導入前に入念にリサーチすることをおすすめします。
② どういった分野で使用するか
一口にBIツールといっても、それぞれに特徴があります。
自社でBIツールを使用する場合、何を目的とするのか、また、誰が使用するのかを軸に導入を検討してみることも大切です。
BIツールは主に、経営分析・営業支援・人事管理・新薬開発などの分野への活用が考えられます。
目的を明確にしておけば、BIツールを提供している企業に問い合わせたときにも、より正確な回答を得られやすいです。
③ 導入のしやすさ
価格帯の説明と重複しますが、オンプレミス型かクラウド型かによって、導入のハードルも変化します。
担当者が問題なく使用可能か、取り扱いに関する問い合わせやサポート対応は利用可能か、導入から使用可能になるまでどれくらいの期間を要するのかなど、確認しておくと良いでしょう。
④ 操作性
BIツールは機能性や効果が高い一方、操作性の良さも判断基準の一つに挙げられます。
いくら高機能であっても使用が難しければ自社に定着せず、見込んでいた効果が発揮されないことや、担当者の教育コスト増加につながることも考えられます。
経営陣から現場スタッフまで、たとえ担当者に専門知識がなかったとしても操作でき、必要なデータに素早くアクセスできるBIツールであれば、導入後も安心でしょう。
まとめ|BIツール導入でさらなる事業発展を目指そう
BIツールは、分散したデータの統合や分析、可視化により、組織の意思決定をスピーディーかつ正確にサポートするものです。
使用できる分野も経営分析や営業支援、人事管理、新薬開発と広く、AIと人の活躍をさらに促進するものといえるでしょう。
導入にはコストや人材育成といった課題も伴うため、自社の目的に沿ったツール選びや運用体制の整備をしたうえで導入を検討しましょう。
AIの進化によってデータ活用の幅が広がる今だからこそ、人がBIツールを使いこなし「情報を整理して誰もが使える形にする力」は欠かせません。
データを価値に変える仕組みを導入し、さらなる事業発展を目指す第一歩として、BIツールを検討してみてはいかがでしょうか。

【監修者】岡本妃香里
2014年に薬学部薬学科を卒業し、薬剤師の資格を取得。大手ドラッグストアに就職し、調剤やOTC販売を経験する。2018年にライター活動を開始。現在は医薬品や化粧品、健康食品、美容医療など健康と美に関する正しい情報を発信中。医療ライターとしてさまざまなジャンルの記事執筆をしている。
【執筆者】吉村友希
医薬品開発職を経て医療ライターに転身。疾患・DX/AI・医療広告・薬機法など、医療と健康に特化した記事制作を担当。英語論文を活用した執筆やSEO対策も可能。YMAA認証取得。




