「臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ」#9臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ
2026.02.25
2026.02.25
希少疾患の全身型重症筋無力症を医療ビッグデータで解析
阪大髙橋氏ら研究グループが薬剤副作用と合併症リスクにフォーカス

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻臨床神経生理学教授の髙橋正紀氏らとアルジェニクスの研究グループは、メディカル・データ・ビジョン(以下 MDV)の保有する国内最大規模の診療データベースを活用して全身型重症筋無力症(Generalized Myasthenia Gravis =gMG)患者に対する経口グルココルチド(GC)薬と合併症リスクについて解析研究をしたところ、gMG患者の多くが目標とされる5mg/日を超えるGCを使用しており、その使用量に応じて骨粗鬆症や血栓症、糖尿病、高脂血症/高コレステロール血症などの合併症リスクが用量に依存して増加することが明らかになった。
この研究は髙橋氏らとアルジェニクスのグループが取り組んだもので、その論文は、Front Neurol誌2025年号に掲載されている。
原著論文はこちら→ https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12550776/
毎年2月末は希少・難治性疾患への理解促進を目的とした国際的な啓発デー「世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day:RDD)」。gMGは神経から筋肉への伝達が自己抗体により阻害され、手足、喉、呼吸筋など全身の筋力低下と易疲労性を呈する指定難病。希少・難治性疾患は患者数が限られる一方で、長期療養を要するケースが多く、研究開発や医療提供体制の検討において、実臨床データに基づく患者規模の実態把握が重要となる。
■「神経・筋疾患領域」の上位10疾患
日本における指定難病は、原因不明、治療法未確立、希少性および長期療養性を要件として厚生労働大臣が指定する疾病であり、2025年4月時点で348疾病が対象となっている。厚労省「指定難病病名及び臨床調査個人票一覧表」に基づき指定難病を抽出し、2023年4月以降のMDV DPCデータを用いて入院患者数の年度別推移を分析し、指定難病の入院患者数が多い「神経・筋疾患領域」の上位10疾患をまとめた。その中に、「重症筋無力症」も入っている。

対象期間 : 2023年4月~2025年9月
対象施設数:445
■MDVデータを用いた多施設後ろ向きコホート研究
髙橋氏らとアルジェニクスのグループが取り組んだのは、MDVデータを解析した多施設後ろ向きコホート研究。2008年4月から2022年12月までのデータベースを使用し、2018年から2021年の間のgMG患者を解析対象にした。gMG患者9,687人(平均年齢65歳、女性56%、追跡期間3.2年)のうち、3,696人(38.2%)が新規の診断患者(2018年以降)である一方、5,991人(61.8%)が既に診断された患者(2018年以前)だった。
データ解析研究の結果、GCの平均投与量は8.5mg/日(新規診断:10.6mg/日、既診断:7.5mg/日)だった。また、GC治療を受けた患者の70%が目標用量の5mg/日を、26%が10mg/日をそれぞれ超えていた。GC非使用患者と比べると、GC使用は骨粗鬆症、血栓症、糖尿病、高脂血症・高コレステロール血症で用量に依存して関連していた。
■髙橋氏のインタビューは以下の通り。
――「重症筋無力症」のデータ解析研究を振り返っていただきながら、同疾患を取り上げた理由や背景についてお聞かせください。
重症筋無力症の治療の目標は完全治癒(寛解)が難しくても、症状を最小限(軽微症状:Minimal Manifestations)に抑え、日常生活に支障がないQOL(生活の質)の維持・向上を目指し、社会復帰するのがゴールとされている。
日本の重症筋無力症の診療ガイドラインは先進的で、同ガイドライン2022では、長期的なステロイドの副作用を抑えつつ、日常生活に支障のない軽微症状を維持するために連日のGC5mg/日以下が推奨されている。さらに最近、分子量的薬が登場するなど、新薬が相次ぎ治療の選択肢が増えつつある。その中でGCの使用実態の現状を検証しようと考えた。
――今回のデータ解析研究で工夫した点などがあれば、お教えください。
合併症について、骨粗鬆症や血栓症、糖尿病、高脂血症/高コレステロール血症をピックアップした。そのうちの骨粗鬆症については、骨粗鬆症に対する治療薬が予防的に使用されている患者も含まれる可能性があるため、骨粗鬆症でも具体的に骨折を伴っているかどうかなども見極めた。
――今回のデータ解析研究の結果を踏まえて、今後、何らかの働きかけをするご予定はありますか。
今回のデータ解析研究で、重症筋無力症診療の実態がまだまだガイドライン通りではないことが明らかになった。この研究結果を新たなエビデンスとして、臨床現場に対して、より積極的な治療に向け情報発信を続けていきたい。 私の専門は神経筋疾患なので、今後の研究課題は、治療薬が到来しつつある筋ジストロフィーになると考えている。筋ジストロフィーは、治療が長期にわたり、呼吸筋低下による排痰障害と、咽頭筋低下による誤嚥が主な原因で合併症として肺炎を引き起こして入退院を繰り返すケースも少なくない。同疾患のデータ解析研究では、医療費がどの程度かかっているかにも関心がある。
【参考】
厚生労働省「指定難病病名及び臨床調査個人票一覧表」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_53881.html
PMDA(独立行政法人 医薬品医療機関総合機構) 新医薬品の承認品目一覧
(2023、2024年度)
https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0010.html
以上
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