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日本のがん患者におけるオピオイド誘発性便秘に対する下剤の使用パターンに関する全国病院請求データベース分析RWD × 医学論文解説

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論文紹介

 がん患者における疼痛管理にモルヒネを始めとするオピオイド(麻薬性鎮痛薬)が投与される。オピオイドの副作用の一つに便秘が挙げられ、オピオイド誘発性便秘(OIC)のある患者にはオピオイドの投与と同時もしくは投与後に大腸刺激性下剤(例:センノシド)、浸透圧性下剤(例:酸化マグネシウム)を定期投与することが、また末梢作用型μオピオイド受容体拮抗薬(例:ナルデメジン)は条件付きでそれぞれ推奨されている(ガイドライン | 日本緩和医療学会 – Japanese Society for Palliative Medicine)。本研究は、日本人がん患者におけるOICに対する下剤の使用パターンが、開始時のオピオイドの種類(強/弱)と下剤投与のタイミングによって異なることをRWDを用いて初めて明らかにしたものである。

日本のがん患者におけるオピオイド誘発性便秘に対する下剤の使用パターンに関する全国病院請求データベース分析

Takahiro Higashibata, Takaomi Kessoku, Yasuhide Morioka, Yuichi Koretaka, Hirokazu Mishima, Hidetoshi Shibahara, Yuriko Masuda, Yasushi Ichikawa, Atsushi Nakajima & Takayuki Hisanaga

題名A Nationwide Hospital Claims Database Analysis of Real-World Patterns of Laxative Use for Opioid-Induced Constipation in Japanese Patients with Cancer
著者Takahiro Higashibata, Takaomi Kessoku, Yasuhide Morioka, Yuichi Koretaka, Hirokazu Mishima, Hidetoshi Shibahara, Yuriko Masuda, Yasushi Ichikawa, Atsushi Nakajima & Takayuki Hisanaga
出典Pain and Therapy
領域オピオイド誘発性便秘症

Pain Ther . 2023 Aug;12(4):993-1003. DOI: 10.1007/s40122-023-00520-2

背景

 オピオイド誘発性便秘(OIC)は、オピオイド鎮痛薬を投与されるがん患者において最も一般的な副作用の一つである。日本におけるOICに対する下剤の使用状況は明確ではない。本研究の目的は、オピオイド鎮痛薬療法を新規に開始したがん患者における下剤の使用パターンを実臨床において調査することである。

方法

 日本全国の病院請求データベース(2018年1月~2019年12月)を用いた。オピオイド鎮痛薬療法を新規に開始したがん患者を、オピオイドのクラス(弱または強)と投与経路(経口または経皮)に基づいて分類した。患者は、オピオイド鎮痛薬療法開始後3日以内に下剤を投与されたか否かで2群に分け、下剤の使用パターンを分析した。

結果

 対象患者は26,939例で、そのうち50.7%が強オピオイドから開始されていた。オピオイド鎮痛薬療法開始後3日以内の下剤早期投与を受けた患者の割合は、弱オピオイドで25.0%、強オピオイドで57.3%であった。早期投与群では、第一選択療法として浸透圧性下剤が最も頻繁に使用された(経口弱オピオイド:12.3%、経口強オピオイド:29.4%、経皮強オピオイド:12.8%)。刺激性下剤は、早期投与群において浸透圧性下剤と同程度またはそれ以上に第一選択療法として頻繁に使用された(経口弱オピオイド:13.7%、経口強オピオイド:7.7%、経皮強オピオイド:15.1%)。末梢作用型μオピオイド受容体拮抗薬は、経口強オピオイドを使用している早期投与群において、二番目に頻繁に使用された(9.4%)。

結論

 本研究は、がん患者におけるオピオイド誘発性便秘(OIC)の下剤使用パターンが、オピオイドの種類と下剤投与のタイミングによって異なることを初めて示した。


前田 玲

日本薬剤疫学会 認定薬剤疫学家

外資系製薬会社において20年以上医薬品安全性監視関連業務(RMP、使用成績調査等)に従事してきた。また業界活動を通して薬機法、RMP、GPSP、データベース・アウトカムバリデーション関連の通知類に対してコメントしてきた。現在、MDVなどの顧問として医薬品の安全性管理の観点から助言している。

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