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免疫チェックポイント阻害剤投与後のエンホルツマブ・ベドチン投与と日本人転移性尿路上皮がん患者の予後:転移性尿路上皮がんにおけるエンホルツマブ・ベドチンの大規模データベース研究RWD × 医学論文解説

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論文紹介

 本研究は、エンホルツマブ・ベドチンの実臨床下での効果を、リアルワールドデータ(RWD)を用いて検討している。転移性尿路上皮がんには、シスプラチンを含む術前化学療法が標準的に用いられてきた。近年、免疫チェックポイント阻害剤や当研究の対象薬剤である抗体‐薬物複合体のエンホルツマブ・ベドチン等の新薬が上市され、転移性尿路上皮がんの薬物治療の選択肢は増えてきている。ただし、腎盂・尿管癌診療ガイドライン2023年版*のCQ7によれば、エンホルツマブ・ベドチンは、既存薬治療後の治療オプションとして、エビデンスレベルは限定的であるものの推奨されている。一方、「実臨床におけるエンホルツマブ・ベドチンの効果および安全性の検討は,いまだ十分とはいえない」とされている。本研究はガイドラインに関連するエビデンスの集積に寄与できるものと考える。

https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/45_renal_pelvis_and_ureter_2023.pdf

免疫チェックポイント阻害剤投与後のエンホルツマブ・ベドチン投与と日本人転移性尿路上皮がん患者の予後:転移性尿路上皮がんにおけるエンホルツマブ・ベドチンの大規模データベース研究

Takashi Kawahara Akihito Hasizume, Koichi Uemura, Katsuya Yamaguchi, Hiroki Ito, Teppei Takeshima, Hisashi Hasumi, Jun-Ichi Teranishi, Kimito Ousaka, Kazuhide Makiyama, Hiroji Uemura

題名Administration of Enfortumab Vedotin after Immune-Checkpoint Inhibitor and the Prognosis in Japanese Metastatic Urothelial Carcinoma: A Large Database Study on Enfortumab Vedotin in Metastatic Urothelial Carcinoma
著者Takashi Kawahara Akihito Hasizume, Koichi Uemura, Katsuya Yamaguchi, Hiroki Ito, Teppei Takeshima, Hisashi Hasumi, Jun-Ichi Teranishi, Kimito Ousaka, Kazuhide Makiyama, Hiroji Uemura
出典cancers
領域尿路上皮がん

Cancers (Basel), 2023 Aug 23;15(17):4227. doi: 10.3390/cancers15174227.

背景

 エンホルツマブ・ベドチンは、特にプラチナ系化学療法および免疫チェックポイント阻害剤阻害剤が一次治療として投与された進行性尿路上皮がん患者において、標的療法として期待される薬剤である。EV-301第III相試験*では、標準化学療法と比較して全生存期間と奏効率が有意に改善された。しかし、特に大規模な実臨床下の研究データはまだ十分でなく、日本人患者における有効性をさらに評価する必要がある。

*注:治療歴のある進行尿路上皮癌に対するエンホルツマブ ベドチン | 日本語アブストラクト | The New England Journal of Medicine(日本国内版)

方法

 ペムブロリズマブを2次治療として投与された尿路上皮がん患者6,007例を分析した。そのうち、ペムブロリズマブ投与後にエンホルツマブ・ベドチンを投与された患者563例と、ペムブロリズマブ投与後にドセタキセルまたはパクリタキセルを投与された患者443例が、生存期間延長の評価対象とした。

結果

 エンホルツマブ・ベドチン群は、パクリタキセル/ドセタキセル群に比べて全生存期間が有意に長かった(p = 0.013、HR:0.71)。多変量解析では、エンホルツマブ・ベドチンの導入が全生存期間の独立したリスク因子であった(p = 0.013、HR:0.70)。がん特異的生存期間では有意な差は認められなかった。

結論

 エンホルツマブ・ベドチンは、ペムブロリズマブ治療後の日本人進行性または転移性尿路上皮がん患者において、パクリタキセルまたはドセタキセルと比較して全生存期間を延長した。


前田 玲

日本薬剤疫学会 認定薬剤疫学家

外資系製薬会社において20年以上医薬品安全性監視関連業務(RMP、使用成績調査など)に従事してきた。また業界活動を通して薬機法、RMP、GPSP、データベース・アウトカムバリデーション関連の通知類に対してコメントしてきた。現在、MDVなどの顧問として医薬品の安全性管理の観点から助言している。

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