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リアルワールドデータから読み解く血友病Aの治療変遷:主要バイオ製剤を中心に

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 毎年4月17日は、世界血友病連盟によって制定された世界血友病デーである。この日は、世界中で血友病およびその他の先天性出血性疾患に対する認識を高め、治療へのアクセス向上を呼びかける重要な機会とされている。

血友病Aは、血液凝固第VIII因子の欠乏または活性低下により生じる遺伝性の出血性疾患である。関節内出血の反復は長期的に血友病性関節症を引き起こし、患者のQOLを著しく低下させる。現在では、出血予防を目的とした定期補充療法が標準治療として広く普及しており、近年は従来の凝固因子製剤に加え、非凝固因子製剤である抗体製剤(エミシズマブ等)や半減期を延長した長時間作用型(EHL)製剤の登場により、投与負担の軽減と止血管理の向上が進んでいる。

そこで、MDVデータを用い、2015年〜2025年の期間における血友病A患者数および治療患者数の推移、バイオ製剤の主要製品別使用状況、ならびに診断後における血栓症・塞栓症関連疾患の発現患者数について分析した。

1. 血友病A:疾患患者数と治療患者数の推移

血友病Aにおける疾患患者数および実際に治療を受けた患者数の推移を分析した。

集計期間:2015年1月~2025年12月
対象疾患:血友病A

全期間を通じて、疾患患者数(青色)と治療患者数(赤色)は概ね連動して推移している。2025年に入り両数値とも減少に転じているが、これはデータソースにおける対象施設数の変動等による影響が推察される。

安定的な治療比率の維持:

 疾患患者数と治療患者数の間には常に一定の乖離が存在するが、全期間を通してその比率(治療介入率)は安定的に推移している。

未治療層の背景:

定期補充療法を必要としない軽症例や経過観察中の患者、出血時のみ投与するオンデマンド治療群が含まれる可能性が考えられる。

2. バイオ製剤の主要製品における使用患者数の変遷

血友病A治療に使用される主要なバイオ製剤(凝固因子製剤および非凝固因子製剤)の使用患者数の推移を分析した。

集計期間:2015年1月~2025年12月
対象疾患:血友病A

非凝固因子製剤(エミシズマブ)の拡大:

2018年以降に登場したエミシズマブ(茶色)は、使用患者数を急速に伸長させ、2020年には既存の主要製剤を上回った。2024年末には約420人と最多となり、直近ではやや減少がみられるものの、依然として最大の患者規模を占めている。

既存製剤の減少傾向:

従来型の凝固第VIII因子製剤の一部(ルリオクトコグ アルファ(水色)、オクトコグ アルファ(赤色)など)は、2017~2018年頃をピークに減少傾向へ転じている。エミシズマブ(茶色)の普及と同時期に患者数の縮小がみられ、治療選択の変化が示唆される。

EHL製剤の動向:

ルリオクトコグ アルファ ペゴル(橙色)などのEHL製剤は、2016年以降に増加し、その後は増減を伴いながらも一定規模で推移している。特定の患者層において継続的に使用されている状況がうかがえる。

見解:

エミシズマブ(茶色)の患者数拡大と従来製剤の一部減少が同時期に認められることから、非因子製剤への治療シフトが進展している可能性が示唆される。これは血友病A治療における治療選択の変化を反映した重要なトレンドと考えられる。

3. 血友病A診断後の血栓症・塞栓症の発現状況

血友病A治療において血栓症は重要な有害事象の一つであることから、2015年1月〜2025年12月の期間において、血友病Aと診断された患者を対象に、診断後の血栓症・塞栓症関連疾患の発現状況を分析した。

集計期間:2015年1月~2025年12月
対象患者:血友病A患者(診断確定例)
対象患者数:1,509人

発症傾向:

 「深部静脈血栓症」(35人)が最も多く、次いで「下肢静脈血栓症」(10人)となっており、静脈系、特に下肢に関連する血栓症の発現が多い傾向が認められた。

見解:

出血性疾患である血友病A患者においても血栓症の発症が一定数確認される点は注目される。

本結果は、患者の高齢化や合併症の増加、入院・手術などの医療介入に伴う影響が関与している可能性が示唆されるが、本データのみから因果関係を特定することは困難である。深部静脈血栓症の割合が高いことから、臨床現場においては止血管理と併せた血栓リスクへの配慮の重要性が示唆される。

まとめ

血友病Aの患者数は診断率の向上や生存期間の延長を背景に緩やかな増加傾向で推移している。治療は依然として凝固因子補充療法が基盤であるものの、近年はエミシズマブに代表される非凝固因子製剤の普及により、特にインヒビター保有例を中心に治療選択が多様化している。加えて、EHL製剤への切り替えも進んでおり、投与負担軽減の観点から臨床的意義が高いと考えられる。

※本記事は2026年4月2日付で公開されたものです。

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