多発性硬化症の患者動態と治療戦略の変遷:早期高効果治療へのシフト
多発性硬化症(MS)は自己免疫機序が関与すると考えられている炎症性脱髄疾患で、脳・脊髄・視神経の炎症により視力障害や運動麻痺など多様な症状を呈し、再発寛解を繰り返す型が多くを占めるが、一方、一次進行型では発症初期から進行性の経過をたどる。
国内では指定難病(指定難病13)に指定されており、若年成人のQOLを著しく損なう疾患として知られている。
5月30日は「世界多発性硬化症の日(World MS Day)」であり、社会的関心が高まるこの時期に合わせ、本レポートでは近年の治療動向の変化を整理した。
従来のエスカレーション戦略に加え、近年は予後不良例に対する早期高効果治療が重視されている。そこで、MDVのDPCデータおよびMDV analyzer for Clinical Insightを用い、実患者数の推移、疾患修飾薬(DMD)の使用実態、そしてペイシェントジャーニーの分析を通じて、実際の臨床現場における治療戦略の変遷を分析した。
1. 多発性硬化症の実患者数推移(男女別)
まず、MSの実患者数の推移を男女別に調査した。

期間:2019年1月~2025年12月(集計基準日:2026年4月)
- 推移:男女ともに右肩上がりの増加傾向にある。女性の患者数は2019年の4,000人台後半から、2025年には6,000人を超える水準まで伸長した。男性についても2,000人強から2,600人程度へと増加している。
2. 疾患修飾薬(DMD)の使用推移
次に、治療の柱となるDMDの薬剤別使用患者数の推移を分析した。

期間:2019年1月~2025年12月(集計基準日:2026年4月)
- 推移:長らく主要な選択肢であったフィンゴリモド塩酸塩やインターフェロンベータ製剤、フマル酸ジメチルなどは、2021年以降、維持または減少傾向に転じている。一方で、2021年承認のオファツムマブ(遺伝子組換え)を中心に、発売直後から急激な増加を見せ、2025年には1,000人超の処方患者数となっている。
- 見解:本結果より、近年は高い有効性を持つ高活性薬へのシフトが進んでいる可能性が示唆される。既存治療からの切り替えや新規導入において、オファツムマブが選択されるケースが増加していることが背景として考えられる。
3. 初回確定診断から初回処方日までの日数
治療開始タイミングの変化を把握するため、確定診断から初回処方までの日数を分析した。

期間:2019年1月~2025年12月(集計基準日:2026年4月)
- 推移:2019年から2023年にかけては概ね75日前後で推移していたが、2023–2024年期以降に短縮傾向がみられ、2024–2025年期には60日未満(50日台後半)まで低下している。
- 見解:本結果から、近年は診断から治療開始までの期間が短縮している可能性が示唆される。背景として、早期治療介入の重要性に関する認識の浸透や、新規治療選択肢の拡充が影響している可能性が示唆される。
4. ペイシェントジャーニー:初回治療選択の変遷
最後に、近年の治療トレンドである「早期高効果治療」の浸透状況について、2つの期間(2016–2020年、2021–2025年)の比較から分析した。
本分析では、多発性硬化症の治療薬について、有効性に基づく一般的な位置づけを参考に、便宜的に「低活性」「中活性」「高活性」の3区分に分類し、治療選択の推移を検証した。なお、本分類はガイドライン等に基づく厳密な定義ではなく、薬剤間の相対的な有効性を踏まえた便宜的な整理である。
分類の定義
治療A群(低活性群)
従来から使用されている注射製剤を中心とした、比較的安全性プロファイルが確立した治療群
・10306:インターフェロンベータ-1a(遺伝子組換え)
・10307:インターフェロンベータ-1b(遺伝子組換え)
・10828:グラチラマー酢酸塩
治療B群(中活性群)
経口剤を含む、従来治療より高い再発抑制効果が期待される治療群
・12046:フィンゴリモド塩酸塩
・12088:フマル酸ジメチル
・12959:シポニモドフマル酸
治療C群(高活性群)
高い有効性を有し、疾患活動性の高い患者や早期高効果治療での使用が想定される治療群
・10558:オファツムマブ(遺伝子組換え)
・11728:ナタリズマブ(遺伝子組換え)

- 初回治療(interval01):治療B群が60.13%(439人)と過半数を占め、次いで治療A群が36.84%(269人)であった。
- 2次治療への移行(interval02):本分析の対象施設のDPCデータにおける初回治療を受けた730人のうち、16.98%(124人)が2次治療へ移行している。

- 初回治療(interval01):薬剤選択に変化がみられ、治療C群が47.85%(502人)と最多となった。治療B群(フィンゴリモド等)は44.13%(463人)、治療A群(インターフェロン等)は7.53%(79人)であった。
- 移行率の変化:本分析の対象施設のDPCデータにおける初回治療患者1,049人のうち、2次治療(interval02)への移行は13.25%(139人)、3次治療(interval03)は3.62%(38人)であった。
まとめ
本分析より、近年は初回治療において高活性薬が選択される割合の増加が確認された。あわせて、治療ラインの移行率が低下している傾向も認められる。これらの結果は、早期から高い有効性を期待する治療戦略の浸透と整合的な動きである可能性が示唆される。
※本記事は2026年5月1日付で公開されたものです。
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