コラム

「EBMデータのあゆみ・現在(後編)」 EBM Inside 第2回

では次にWebツール「MDV analyzer」についてですが、その当時の開発に至った経緯や、1件目の導入までの道のりなど伺えますか?

松林

「MDV analyzer」は、2012年の8月にリリースしました。ツールは全て営業が企画しました。それは実際に、お客様から生の声や、必要なものを直接聞き、逆にこういったものがあればどうでしょうか?とヒアリングできる立場だったからです。営業が企画提案をし、プロジェクト化して製品化するという流れはEBM推進部のWebツール開発においては今でも変わりません。

診療データベースで患者数や処方量などを分析

初期バージョンの「MDV analyzer」は、「基本的な母数フィージビリティの確認が容易にできるもの」というコンセプトで開発されました。ツールではそこまでで、より詳細な内容についてはアドホックで個別にカスタマイズした定義を基に確認するものと考えていました。このツールは、お客様が弊社の営業担当に対し、「この症例で母数がどれぐらいいるか?」などの確認をいちいちする必要がなく、お手元で簡便にスクリーニングができるツールとして考えられました。

最初にリリースした「MDV analyzer」の一番の問題点は、症例数が1,000万人規模の頃であったにもかかわらず、処理スピードが非常に遅かったことでした。一番シンプルな患者数分析であっても結果が出るまでには数分を要していました。マーケッターの方は時間に関してとてもシビアな方々も多く、まずは処理スピードの向上、そして直感的に使用できるユーザビリティの改善を開発担当に求めて改善していきました。

その後、リリースから半年ほど経過した頃、「MDV analyzer」の初めての導入が外資系製薬企業で決定しました。当時のマーケティング・営業チームの責任者の方がデータ利活用に非常に前向きでした。実は、現在当社のグローバル担当執行役員であるオヴァロ(・フィリップ)は、当時その製薬企業に在籍しており、「実は当時の決裁は私がしたよ」と最近聞きました。スピード改善のバージョンアップの後に、3~4件続けて決まったことから、実績や活用事例の紹介などができるようになり導入数も拡大していきました。

「MDV analyzer」の初期版、バージョンアップ版、そして現在の仕様を比べると大きく変化しているのでしょうか?

松林

初期版と比べると、現在「新機能」と呼んでいる「オプション機能」(拡大推計や新規切り替え・継続機能)などはまだ存在していませんでしたが、それ以外の部分に関しては、初期版から8割〜9割の機能は変わらずご利用いただいています。もちろん、細かい部分での改修については、ご利用いただいている皆様の声を日々検討・改善しています。

「MDV analyzer」は初期版から現在の仕様まで仕様が大枠ではさほど変わっていないということですが、それは利用者ニーズに応えているのでしょうか?この点含め、ご利用いただいている方々からどのような声が挙がっていますか?

松林

「MDV analyzer」をご利用いただいている担当者様からお聞きした話ですが、その方は気になったことはすぐログインしてさまざまなことを都度、確認されていました。ある時、予算・経費削減の方針が出て「MDV analyzer」の契約更新が危ぶまれたことがありました。その方は「もしアナライザーを奪われたら手足をもがれるようだ」と訴えて、社内を説得していただき、無事契約継続につなげてくださいました。
また、我々も面談時にお客様からの質問に回答する際には、お客様の目の前で「MDV analyzer」を利用していますが、RAWデータにアクセスして分析をするまでもなく、その場で単純なフィージビリティなどはスピーディーに確認できる点は非常にご好評いただけております。初期版で問題だった処理スピードに関しても、常に最新の技術・工夫を取り入れており、現データボリュームが当時の1,000万人規模から4倍以上の4,500万人規模に拡大した現在も、ご利用者の皆様から本当にストレスなく使えているとご評価いただけている点は、開発担当者の日々の努力や工夫の賜物だと自負しております。

病院データ数と保険者データ数

最後に、EBMが提供するサービスには、Webツール、アドホック、年間契約の3つがありますが、今後特に伸ばしていきたいサービスについてお聞きしたいと思います。また、製薬企業に対してサービスを提供する際に、どの部分を拡充することが業界的にも将来的に良い価値を生むのか、などのご意見があればお聞かせください。

松林

実は、その3つ以外のところを拡充していきたいと考えています。現状のサービスは、すでに存在しているデータソースであり、弊社以外でも分析が可能な部分になります。そういったDPCやレセプトなどのデータを製薬企業の方も使い慣れてきている中、今後はそれだけではわからないことへのニーズが増えてきているのを最近、強く感じています。

既に一部で扱っている血液検査の結果数値など、患者一人ひとりに合わせた臨床的な情報や、現状では取得できていない生体検査の結果やカルテの所見に当たる部分の情報など、製薬企業の皆様が新たに求めている部分でのデータ収集のスキームの確立が急務だと考えています。また、法的な問題、例えば個人情報の問題などもクリアした上で、患者一人ひとりにリーチできるようなシステムを構築することも必要だと思います。

弊社は病院とダイレクトに強固なコネクションを持っており、患者にカルテを返すようなBtoCサービスも開始しています。今後、これらを組み合わせて、従来にないリソースからのデータを提供し、皆様により良いサービスを提供していける環境を整えていきたいと考えています。

メディカル・データ・ビジョン株式会社 EBM本部長 松林 大輔

松林 大輔

医事課職員を経て臨床検査会社の電子カルテ導入部門で7年半勤務。
2008年11月当社入社。2018年4月EBM推進部門長、2023年1月よりEBM本部長就任。当社入社以来、EBM事業に携わり、「MDV analyzer」など製薬向けソリューションの企画立案も行い、データ利活用サービスの拡大・推進に従事。

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