コラム

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「メディカルアフェアーズにおけるMDVデータ活用事例」 EBM Inside 第5回

今回はメディカルアフェアーズ(以下、MA)の活用事例ということで、具体例も交えつつお話しいただけたらと思います。

松林

よろしくお願いします。以前にも触れましたが、2009年当初は100万人規模の診療データベースとして営業活動をしていました。マーケティング部門では症例数がまだ、今ほど多くはなかったので、我々のデータベースを活用していただく機会は限定されていました。ところが、MA部門においては、異なる反応がありました。MA部門は論文作成が主なミッションの1つですが、従来はMAの方が病院の医師と協力して論文を執筆する際、その病院で診療を受ける患者様のカルテデータをデータソースとして活用し、100人程度の症例で投稿されるケースも多々、見られました。
しかし、我々の100万人規模のデータベースを活用することで、特定の条件を設定した場合でも、1,000人以上の症例を確保し、分析することが可能となりました。この点においては非常に好意的な反応を得られたと感じています。

MAという部署において、さらに組織を細分化すると、論文作成を担当するMAと、KOL(Key Opinion Leader)の医師と連携し、専門的な情報や洞察を収集し、医療コミュニティへ提供、またメディカルアドバイザリーボードを主催するなどの役割を果たすメディカルサイエンスリエゾン(以下、MSL)の2つに大別されると思います。
MAの役割である論文制作においては、データの活用が一般的ですが、一方、MSLの活動においてもデータ活用の具体的な実績や活用の可能性はいかがでしょう?

松林

確かに現状、MAの皆様にはすでに論文作成においては非常に頻繁にデータをご利用いただいております。一方で、MSLの皆様の場合、我々のデータを活用した論文を実際の診療に役立て、医師の方々に情報として提供するというケースはありますが、MSL主体でのデータベースを使用した論文作成やデータの利活用という流れはまだ少ない印象です。

MAにおいては、現場の医師や専門家からの声を元に、「クリニカルクエスチョン」(またはリサーチクエスチョン)を特定し、その後研究を進めて論文にまとめるというプロセスがあります。論文作成においては、通常データセット(加工前のRAWデータ)を活用することが一般的ですが、例えばその前段階でのクリニカルクエスチョンに関するデータ活用の事例などがあれば、詳細を教えてください。

松林

論文執筆までの一連の流れとして、初期によく見受けられたのは、グローバルでの論文実績をもとにして、日本国内での傾向を分析するケースでした。
グローバルな論文は主に海外の症例に基づいていますが、その傾向が日本人にも当てはまるのか、といったことを日本人主体のデータベースで分析をしたいという要望が多かったです。MDV analyzerなどの簡易Webツールでまず当たりをつけて、大まかな傾向を想定した上で具体的な論文作成を検討するといった使い方が主流でしたが、最近は全領域のフルデータ年間契約をしていただいているメーカー様も増えてきましたので、クリニカルクエスチョンを設定する前段階で、データ全体を探索的に使用し、異なる傾向やパターンをご自身で見つけ出し、そこからクリニカルクエスチョンを見つけ出し分析するケースも増えてきていると感じています。
ちなみに外部へのデータ開示に関しては、開示前に必ず確認依頼があるため、弊社のデータを利用した論文や学会発表などの活用事例は全て把握しております。
弊社のデータを初めて活用した論文は2010年が最初です。その後、年々論文の数が増加し、2022年の実績では年間100本を超えるペースで活用されるようになりました。
なお、私たちのデータ利活用サービス紹介サイト「MDV EBM insight」には、我々のデータを活用していただいた論文事例が一部解説付きで掲載されておりますので、ぜひご参照いただければと思います。

続いて、MAの役割には「アンメットメディカルニーズ」として知られる、まだ解決されていない医療ニーズの発見も重要な業務の一つと考えられます。この発見方法として、先生方から多様な意見を収集し、情報を得る手法があります。また、データを活用して仮説を検証し、新たなニーズを見つけ出すアプローチも一つの方法として挙げられますが、この場合のデータ活用の事例や、現在のMDVサービス、例えばWebツールで実現できる方法などがあればお話ください。

松林

論文化という形ではないですが、最近では例えば、希少疾患などに関連して、グローバルでの新薬承認は得られたが、日本国内ではまだ上市されていないような場合に、日本における疾患の症例数や治療傾向などの実態を把握するために、我々のデータを活用して分析をしたいと相談されるケースが増えています。近年では、当局申請の資料作成においてデータを活用したいというニーズも増えてきています。
どのケースにおいても、クライアント側で特定の目的が明確にあり、実データを用いて検証することが主流だと感じています。我々のデータを広く探索的に活用して、アンメットメディカルニーズを発見していくケースはまだ少ないように感じています。

論文化のニーズの高い疾患領域にはどのようなものがありますか?

松林

論文化のご相談をいただく領域で多いのは、がんやリウマチ領域、糖尿病などです。これらの領域に関するご依頼が多い印象です。

MAの方が論文化を検討される際に、MDVに声を掛けるタイミングについてお伺いします。論文化の計画や仮説の段階で実現可能かどうかのフィージビリティを検討するための相談があるケースと、それらの計画が完成した後でデータ分析が可能かどうか、必要な症例数の確認などをするケースが多いのか、どのようなタイミングで相談が多くなるのかをお聞きします。

松林

本来、プロジェクトのより早い段階で参画できることが望ましいのですが、以前と現在では変化があるように思います。
数年前まではリサーチクエスチョンありきで、次にどのデータソースを使用するかを検討するのが一般的でした。そのため実際にフィージビリティスタディを実施すると我々のデータでも分析に耐えうる患者数が担保できなかったり、そもそも所持していないデータがアルゴリズム内に組み込まれていたりして、再度計画を練り直すことなどもありました。
データベース研究においては、病院データやレセプトデータなど、さまざまなデータソースが存在し、それぞれに利点と課題があります。まだ適切なデータソースの選定方法が確立されていなかった時期には、我々を含め複数のベンダーからプレゼンテーションを受けた上で適切なものを選択されるケースもありました。その頃は細かな分析結果のレビューや検討会に参加し、データベースベンダーとしての視点を提供しながら、先生方との協議を通じて新たな定義の検討もしました。
しかし、最近ではMAの方々も研究テーマによって実臨床データとRWDのどちらが適しているかを自身の経験と知識に基づいて判断できる方も増えてきました。このため事前にどのデータソースを利用するかを決定した上で、声を掛けていただく流れが一般的になってきているように感じています。
また、2回目や3回目とデータ活用の実績がある方も増加しており、対話がスムーズに進むことで、私たちもより迅速な対応が可能となりました。私たちがこれまでの活動が理解され浸透してきたことを実感するようになりました。
それに伴い我々が前述した検討会などへ参加する機会は減少しているように思います。また、最近では論文のリサーチクエスチョンやプロトコルなどを包括的に引き受けるコンサルティング専門企業も以前に比べ増えてきており、これらの企業がデータの解釈などを担当するケースも増えてきているようです。

ここまでのお話を聞く限りでは、MA部門に対するMDVの役割としては主にRAWデータの提供やデータ集計といったサービスが提供されているようですが、MA部門でWebツールを活用するケースや関連する事例などはありますか?

松林

MAの方々がWebツールを活用するケースで、特に多いのは、条件を設定した上で症例数を確認するという簡易なフィージビリティ調査です。このようなケースが大部分を占めています。
以前は、お問い合わせをいただいた内容に基づいて私たちがデータを集計し、その結果を提供する形で対応していました。しかし、Webツールの導入後は、MAの皆様が手軽にお手元で条件を変更して症例数を確認できるようになりました。例えば、複数の条件を設定した場合にどれが最適か、また特定の条件を変更した際の症例数の変動などをシミュレーションすることが可能です。このようなスピーディーな対応が、計画立案段階での意思決定をサポートしていると考えています。

MAの方々が論文等を検討する際にデータ活用の需要が増加しており、また広くデータの理解が浸透してきているとのお話でした。そのなかで、MDVが提供可能なデータとしてレセプトデータやDPCデータなどがあると思いますが、MDVが提供していないデータに対するニーズについてはどうでしょうか? もしそのようなニーズが存在する場合、MDVはどのように考えているのかお伺いしたいです。

松林

私たちのデータソースとして、レセプトデータやDPCデータ以外に症例数は限定されますが、一部の血液検査値も収集しています。これらを組み合わせることで、例えば重症度や有害事象など、医事会計データだけでは分析できなかった集計が可能です。しかし、アウトカムとして血液検査だけでは限界があるとも言われています。
そのため現在データベース化していないデータを活用して分析をすることができるかという問い合わせも増えています。私たちは、病院様との強固な関係性の下基に直接のデータ収集をしております。これまでの信頼関係をもとに各病院様に特定の分析に必要なデータの収集の協力をお願いし、趣旨にご賛同いただけた場合、そのデータを論文作成などの目的に利用可能なデータセットとして提供するケースも少しずつ増えてきております。

では、通常提供されているデータの枠を超えた情報を求めるニーズに対して、DPC病院の中から得られる情報から、特定の研究のために個別のデータベースを作成し利用できる環境を提供できるということでしょうか?

松林

すべてのケースで可能ではありませんが、収集したい情報の内容によります。
大前提として医療機関の許諾が必要ですが、収集作業もデジタル化が比較的容易なものなど、いくつかの条件を満たす必要があります。それらの条件が満たされる場合、匿名化された情報を収集し、データベース化して提供することができます。
ですので、現在提供していない情報についても、ご興味がある情報については、どのようなデータが必要か、何を求めているかについて、ぜひ営業担当にお知らせいただければ、提供の可否についてお答えできるかと思います。

ここ数年、MA部門の中で、論文作成という活動において、医療技術評価(HTA: Health Technology Assessment)や医療経済・アウトカムリサーチ(HEOR: Health Economics and Outcomes Research)に関する考え方が注目を集めています。HTAとHEORはそれぞれ異なるアプローチになりますが、MAの論文執筆において、こういった領域における必要性や感覚的な変化、これまでの実績についてお聞きしたいと思います。

松林

HEORの分野でもRWDの利活用に関する相談は増えてきています。以前は、ガイドラインに基づいた治療モデルを構築し、保険点数と照らし合わせ医療費を算出する方法が主流でしたが、実際の臨床現場では予定通りの治療が常に行われるとは限りません。
我々のデータから得られるリアルな患者のデータを分析し、実際の医療費の集計をすることで、より精度の高い医療経済モデルの構築が可能となり、説得力ある結果が作成できるようになったと評価していただいております。
ただ、私が経験した中で医療費に関する分析では難しい側面もありました。それは、我々のデータを使用する際に「特定の治療に関連する医療費のみを抽出する」という点です。
医事会計データの特性でもありますが疾患と診療行為がダイレクトに結び付けられてはいません。そのため、例えば「関節リウマチ」に関わる医療費を算出したい場合に『腰痛』に関連する病名も持っている患者の場合、実施された画像検査が本当にリウマチによるものかそうでないのか、その切り分けをするかしないかで精度が大きく変わってきます。このような分析では、各種マスターやアルゴリズム作成などでは詳細な定義設定が必要となってきます。これは日本の診療データベース全体に共通する課題です。医療経済分析においてリアルワールドデータを使用する際の注意点として留意すべきポイントと言えるでしょう。

メディカル・データ・ビジョン株式会社 EBM本部長 松林 大輔

松林 大輔

医事課職員を経て臨床検査会社の電子カルテ導入部門で7年半勤務。
2008年11月当社入社。2018年4月EBM推進部門長、2023年1月よりEBM本部長就任。当社入社以来、EBM事業に携わり、「MDV analyzer」など製薬向けソリューションの企画立案も行い、データ利活用サービスの拡大・推進に従事。

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