コラム

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「R&D部門・グローバルにおけるMDVデータ活用事例」 EBM Inside 第7回

今回は製薬会社のR&D(研究開発)とグローバルにおけるMDVデータの活用事例をテーマにお話いただきたいと思います。まずR&D部門に関して、どんな仕事をしているか?などにも少し触れていただきつつ、その中核となる「新薬開発」、ここにおけるリアルワールドデータの活用、特にMDVデータを活用した事例をご紹介いただきたいと思っています。まず、私の方で事例をお聞きするのにあたりいくつかのケースを用意しましたので、それぞれ事例やコメントを頂きたいと思います。まず1つ目ですが、例えば既存薬が上市済みである新薬を開発する場合、開発理由として「剤形追加」が挙げられると思います。その場合例えば現在の市場ではどんな剤形のニーズが高いのか?という観点での集計などもあるかと思いますがいかがでしょうか?

松林

R&D部門での当社データの活用事例として、剤形改良等に伴う市場の分析ですが、実際に調査案件としてお受けするケースは多々あります。例えば製薬会社として想定している一番の理想的なパターンとしては、薬剤を最大用量で使用していただくことだとは思いますが、そういった場合に実臨床上では本当に最大用量で使用されているのかを見ていただくケースがあります。例えば、1日100ミリグラムが最大容量のお薬があったとして剤形が50ミリグラムしかない場合、最高量の場合は2剤で済むのですが、患者さんが服用する平均値が75ミリだった場合には、非常に処方がしづらい状態になるかと思います。
その場合、実際に患者の平均使用量としてどの量が比率として多いのか、その分析結果によって、より良い処方の実現に向けて既存の50ミリグラムに加え、25ミリグラムの新たな剤形を追加することができれば、25・50・75・100ミリグラムと処方の選択が可能になります。

次に薬剤の費用対効果について、R&D部門の担う役割として薬価交渉もあると思いますが、薬価交渉に関わる部分での調査についてはいかがでしょう?

松林

医療技術評価(HTA)の分析、薬価交渉・薬事関連におけるデータ活用については、10年程前からHEOR、医療経済評価・費用対効果分野でのデータ利活用は公には謳われてきました。ただ、実際の申請において積極的にデータ利活用を取り入れている製薬会社は、肌感としてはまだ少ないように感じています。海外などでは専門部隊や、専門家の数も確保されていますが、実際、製薬会社の担当者様からも国内での医療経済評価ができるHTA関連の人材はまだ少ないというお話を聞いています。現状としては専門の外注業者に、QOLの部分も含めた申請に必要な情報をまとめた資料の作成をトータルパッケージでお願いしているというお話も聞いています。

松林

従来の一般的な手法だと、実際のガイドラインに沿って保険点数を積み上げ、大体この疾患の場合、医療費はこれぐらいかかると想定し、医療費計算をしていました。しかし実臨床の場合では他の併発疾患や、思ってもみないところで医療費が発生するケースも多々あります。そこで、より実臨床に即した医療費の分析、医療費計算のために我々のデータをRWDとしてご購入いただき、分析のソースとして活用いただくといった案件は、近年急激に増えてきていると感じています。また、外資の製薬会社ではグローバルの方からノウハウを共有して、前向きに取り組まれようとする姿勢が感じられますが、まだまだ社内にそうした対応をできる方がいない、取り組もうとは思っているがどこからとりかかって良いのかわからないといったお話も多数いただきます。そうした場合でも我々は他の製薬会社に対し、様々なアカデミックな支援をしていただける企業様とも協業・連携しておりますので、データ分析、コンサルティングも含めてトータルパッケージでご提案をさせていただくこともございます。
ただ、これはレセプト・DPCデータ分析においてよく言われる話なのですが、医療経済の医療費を出すときに、「その疾患にかかった医療費だけを出す」ということは、実は非常に難しい集計でして、例えばレセプトですと対象の患者に実施された保険算定可能な診療項目が全て網羅されており、保険病名も全て記載されています。しかし、それらの病名と診療行為同士の紐づけがされていないのです。よって「この病名で病院へ行き、こういった診療行為を受けた」ということはわかりますが、例えば病名が複数あった場合には、それぞれがどの病名に対する診療行為なのかをデータとして機械的に紐づけすることはできません。
その場合は、データを目で見てきちんと関連したマスターを選定しロジックを組み立てて必要な医療費だけを割り当てるパターンと、単純にその患者にかかっている医療費のトータル全て、直接その該当の診療疾患に関わらない診療行為もトータルで含めてしまうパターンの、大きく2パターンで医療費を分析されるケースがありますので取り扱う際には注意が必要です。

3つ目ですが、臨床開発、治験のプロトコルの妥当性や施設選定、そういった領域でのデータ活用も考えられるかと思いますがいかがでしょう?

松林

治験関連でのデータの利活用では現在募集中の治験案件に人が集まらない要因のひとつとして、プロトコルが厳し過ぎるのではないかというご懸念があり、そのプロトコルをシミュレーションした場合にどれぐらいの症例が担保できるかについて調査するご依頼を受けることもあります。例えば調査をしたところ、もともとのN数が100人だったものが、最終的な定義の段階では5人程度にしかならなかったとします。その場合どの条件が症例の割合を大きく減少させている要因なのか、例えば検査値の条件を緩和するとどの程度の患者数が残るのかなど、さまざまなシミュレーションが可能で、現状のプロトコルの実現の可能性を確認するために、我々のデータを活用していただくご相談も最近多くなってきているように感じます。
また現在、我々が積極的に取り組んでいるのは、患者スクリーニングに我々のデータを活用していただくこと事です。我々はDPC病院から直接的にデータを収集しており、経営支援のサービスの提供等を含め友好的な関係を築いております。データ上では、どの病院でどんなプロトコルであれば、どれほどの疾患を持つ患者がいるかを確認できます。患者数の多い病院に直接コンタクトを取ることも可能なので、施設名開示の許諾が得られた場合、治験検討中の製薬会社にその病院を紹介するサービスも提供しています。
個別案件ベースでの許諾もありますが、最近では該当治験案件があれば、事前に病院名を開示しても構わないという事前の包括同意を病院と結ぶ取り組みを増やしており、現在数十の病院と契約を交わしておりますので、これをさらに拡大しクライアントのニーズに適した病院を迅速に紹介できるように従来の治験における患者スクリーニングにかかる時間と費用を削減し、効率化するためのデータを活用した病院名までわかるWEBでの症例検索ツールも検討している最中です。

グローバルにおけるデータ活用についてお話を聞きたいと思います。
現時点では、MDVが扱っているデータは基本的に日本国内の医療データに限定されていると思います。そこで、グローバルの企業がMDVのデータを活用したいというケース、特にマーケティング、MA(マーケットアクセス)、PV(副作用監視)、R&D(研究開発)のそれぞれがどんなニーズを持っているかお話しください。

松林

まず、マーケティング部門での販売戦略含め分析などデータ利活用は日本法人で実施されることが多いと思います。それとPVに関しても、各国の法律の違いから、日本のデータ利活用は主に日本法人で行われ、グローバル主導のケースはあまり多くはない印象です。
海外でもニーズが高いのはMA部門での利用でしょうか。例えば、論文作成においてアメリカやヨーロッパでのデータソースと、日本におけるMDVのデータソースなど、異なる地域で同様の調査をして、これにより異なる人種間で結果に違いが出るかなどを比較するケースはよくあります。
また、大手の製薬企業では、各国のデータをまとめて総合的なデータベースを構築し、各国の希望者各々がそのデータベースにアクセスしたり、データを共有したりするケースも増えています。そのためグローバル主導で日本法人と共同で調査をするケースも増えています。
ご依頼の形態としては、個別の集計案件でのグローバルとの契約は比較的少なく、単発のデータセットや年間での包括的なデータ契約のケースが多くなっています。
ちなみに、先日(2023年11月)コペンハーゲンで開催された「ISPOR Europe 2023」に当社はブース出展しまして、当社のデータソースを活用した分析事例がポスター発表としていくつか紹介され、その発表を見た方が当社のブースを訪れていただきました。

2023年11月 ISPOR Europe 2023(コペンハーゲン/デンマーク)MDVブースの様子

今後の展望についてですが、グローバルでの認知度向上や販売戦略の強化を図るため、今お話いただいた海外展示会への参加などを含め、日本のデータ活用をグローバル市場に促進する計画や展望があればお聞かせください。

松林

ISPORに参加した当社のグローバル営業担当者が最初に口にした言葉は、「世界的にはまだMDVの名前は広く知られていない」と言うことでした。最初の大きな課題は、こうした分析を可能にする医療ビッグデータが日本に存在することをグローバルの方々に知っていただくことだと考えています。
そのために、ウェブサイトやLinkedInなどのSNSを活用して、積極的に情報発信をして、徐々に顧客数を増やしていく取り組みが必要だと思っています。特にグローバル展開では、製薬企業に限らず、統計解析やコンサルティングをする企業との連携も重要です。個別で日本のデータが必要な際には、当社のデータを活用いただき、その結果を製薬会社に提供することも、有効な海外展開戦略の一環と感じています。
そのために製薬会社に限らず、コンサルティング企業や統計解析の専門企業など、幅広い企業に対して、当社データの内容や実際の活用事例を含めて紹介していく活動を強化していく予定です。

メディカル・データ・ビジョン株式会社 EBM本部長 松林 大輔

松林 大輔

医事課職員を経て臨床検査会社の電子カルテ導入部門で7年半勤務。
2008年11月当社入社。2018年4月EBM推進部門長、2023年1月よりEBM本部長就任。当社入社以来、EBM事業に携わり、「MDV analyzer」など製薬向けソリューションの企画立案も行い、データ利活用サービスの拡大・推進に従事。

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