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「臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ」#10臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ

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胃がん切除、ロボット手術が腹腔鏡よりも合併症減など短期成績良好 大阪公立大・三木医師らの研究グループが医療ビッグデータで解析

 大阪公立大学大学院医学研究科消化器外科の三木友一朗医師らの研究グループは、胃がんに対するロボット支援下(RG=robotic gastrectomy)胃切除術と腹腔鏡下(LG=laparoscopic gastrectomy、通称:ラパロ)胃切除術の患者を比較して、年齢とBMI(=Body Mass Index)により手術後の合併症や入院期間などの違いをメディカル・データ・ビジョン(以下、MDV)の保有する国内最大規模の診療ビッグデータを活用して解析研究をした。その結果、高齢者やBMIが20kg/m²以上の患者でRG後の合併症が減少傾向となることなどが明らかになった。

写真:三木氏(左)と備藤氏

 これは三木氏らの研究グループが取り組んだ多施設後ろ向きコホート研究。MDVの診療データで2019年2月から2023年6月までに胃がんに対してRGまたはLGを初めて受けた18,460人の患者を対象として、病床規模による手術実績に配慮して674人の患者を除外した結果、最終的に17,786人を解析対象とした。RGを受けた患者は2,599人、LGを受けた患者は15,187人だった。

 胃切除術には、胃全摘術、幽門側胃切除、噴門側胃切除を含めた。今回の研究は、胃がん治療においてロボットの普及が進む一方、異なる年齢層やBMI群での短期アウトカムの違いがいまだに不明であったため、RGとLGの比較を年齢とBMIの異なる患者群で検討した。

この論文は、Surgical Endoscopyに掲載されている。

原著論文はこちら→https://link.springer.com/article/10.1007/s00464-026-12716-6?utm_source=rct_congratemailt&utm_medium=email&utm_campaign=nonoa_20260316&utm_content=10.1007%2Fs00464-026-12716-6

 ロボット胃がん手術は2018年4月に保険診療として認可された。ロボットは従来のラパロからさらに進化した手術とされる。ラパロとほぼ同じ傷で、細長い手術器械をロボットアームに固定。術者がコンソールと呼ばれる場所に座ってロボットアームを操縦するものだ。細長い手術器械に手首のような関節機能があり、細かい操作ができるのが特長だ。開腹手術やラパロでは届きにくかった部位にも到達し、より適切な切除ができる可能性がある。

 今回のデータ解析研究の結果、ロボットは多くの年齢層でグレードIIIa以上の重篤な合併症(左のグラフ)と入院期間短縮に有意に関連しており、高齢者ではロボットによる支払いコストの低減効果が顕著(p=0.004)だった。

また、BMIがによって、ロボット手術と腹腔鏡手術の術後合併症リスクの差が異なることが示され20kg/m2以上の患者では、ロボットによる合併症が減少する傾向が確認された(右のグラフ)。

 この研究の共同筆頭著者でデータ解析を担当した同大医療統計学(肩書は研究当時)の備藤翼氏は、「年齢やBMIをカテゴリ別に解析するのではなく、連続的な数値として非線形性を考慮して解析することで年齢やBMIによってアウトカムへの影響がどのように変化するのかを可視化することができました。診療報酬のデータには正確性に限界があることや、サンプルサイズが大きいことで臨床的には有用ではない小さな差でも統計的には有意な結果となってしまうことに注意が必要です。しかし、大規模なデータだからこそ患者の状態(年齢や肥満、合併症の有無等)によって効果が異なるのかという小さいサンプルサイズでは解析が困難な臨床疑問に答えることができる点は大きな利点だと考えています」と述べている。

■三木氏のインタビューは以下の通り。

Q そもそも、ロボットとラパロを比較した背景を教えてください。また、実臨床で大阪公立大医学部附属病院でのロボットとラパロ、さらには開腹手術の比率などが分かればお教えください。

A おおむね年間約80例の胃切除術をしています。その内訳はロボット30例、ラパロ40例、開腹10例程度です。ロボットのアドバンテージは外科医の感覚としてあるのは間違いないのですが、そうは言っても、全症例にロボットを使えるだけの手術枠がありません。多くの日本の病院でそうだと思います。

データを活用した解析研究をしようと考えたのは、「どういう症例が最もロボットのアドバンテージを大きく引き出せる症例なのか」を知りたかったのが端緒です。

Q 今回、術後合併症でClavien–Dindo(クラヴィエン-ディンド)分類におけるグレードIIIa以上
 としていますが、胃切除においては具体的にどういった合併症があるのですか

A 比較的多く、かつ重症になりやすいのはいわゆる腹腔鏡内感染性合併症で、縫合不全、膵液瘻、腹腔内腫瘍とされています。高齢者では肺炎も問題になることがあります。

Q BMIが20kg/m²以上の患者では、ロボットによる合併症の減少が観察されたということですが、この結果の意味と、そもそも年齢とBMIで患者を区分けした理由教えてください。

A BMIが高い方が手術の難度は上がります。ですので、より難易度が高い、つまりは適切な解剖理解が難しい症例でロボットのアドバンテージが出たと理解しています。

Q 医療費と入院日数にも着目した理由、そして医療費と入院日数、それぞれを年齢階層別の結果をどう評価していますか。

A 医療費についても、高齢者に対するロボット使用症例で安く済んでいることは高齢者でのロボットのアドバンテージを示唆していると思います。入院日数については全体にロボットの方がいいですね。Grade3aの合併症でも言えますが、基本はロボットが優れていることに起因していると思います。

Q 今回の医療ビッグデータ研究で工夫した点などありますか。多施設後ろ向きコホート研究になりますが、対象症例を選別する際に、医療機関ごとの病床規模などに配慮はしましたか。

A ロボットを使用した手術が実施していない199床以下の病院の症例を除外して論文では用いています。しかしながら、その基準だとラパロしかしていない病院が入ってくる問題もあったので、通常、ロボットもラパロも実施していることが多い500床ベッド以上の解析もして、傾向に変わりがないことを補足資料で示しています。

Q この研究成果をどのように実臨床にアピールしていきたいですか。もしくは、診療報酬点数などにどう反映させていきたいですか

A 基本的にはロボットが優れているのは間違いないと考えています。ただし、ランニングコストも高い機械ですし、全ての病院で全ての症例をロボットで手術するだけの必要な台数が導入されているわけではないと思います。

 つまり、何らかの理由をつけて「ロボット」か「ラパロ」か、を選択しないといけないことになります。その観点で我々は「高齢者」や「肥満症例」を割と積極的にロボットに割り当てて日常臨床をするようになりました。

 診療報酬点数は胃切除の場合、すでにロボット加算がついています。これは先人のさまざまな研究などでのご努力の結果です。今回の研究を受けて診療報酬点数が増えるなどといった効果はというのは難しいでしょうが、確かに肥満症例などは、通常の手術より困難になるケースが多いので、特別な加算があれば、診療現場を後押しするだろうと考えています。

Q 今後の研究課題を可能な範囲でお教えください

A 術前化学療法後の手術が今後、胃癌でも主流となってくることが予想されています。化学療法後手術の成績などについても解析をしたいと考えています。

 過去のデータでも手術前に化学療法が入っている症例で、どの程度術後合併症があるのか、さらには、ICI(Immune Checkpoint Inhibitor=免疫チェックポイント阻害薬)を術前に使っている場合に、術後にirAE(immune-related Adverse Events=免疫関連有害事象)が、どの程度発生しているのかなどは、とても興味のあるところです。

以上

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