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「臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ」#12臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ

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慢性腎臓病患者の睡眠薬と骨折リスクを検証 小野木医師らの研究グループが医療ビッグデータで解析

 名古屋大学医学系研究科病態内科学講座腎臓内科学の小野木智加朗医師らの研究グループは、慢性腎臓病(CKD)患者で、作用機序の違う2つの睡眠薬であるベンゾジアゼピン受容体作動薬(BDZRA)とオレキシン受容体拮抗薬(DORA)と骨折リスクを、メディカル・データ・ビジョン(以下、MDV)の保有する国内最大規模の診療ビッグデータを活用して解析研究をした。その結果、BDZRA群は、DORA群よりも大腿骨頚部骨折および椎体骨折の複合エンドポイントの累積発生率が低いことが分かった。

 CKD患者は腎機能低下に伴うミネラル代謝異常(CKD-MBD)により骨がもろくなり、健康な人と比較して骨折リスクが高いとされ、睡眠薬に関連する骨折リスクは、CKD患者にとって大きな懸念事項である。

 特に、CKDのステージG3〜5では大腿骨や脊椎の骨折リスクが増加し、骨折は心血管イベントや死亡リスクと強く関連する。一方、作用機序の異なる睡眠薬における骨折リスクについては、はっきりしていなかった。そこで小野木氏らはCKD患者において、BDZRAとDORAと骨折リスクの違いを調べた。

 小野木氏らが取り組んだのは多施設後ろ向きコホート研究。MDVの診療データで2008年4月から2021年8月までの症例を解析した。BDZRA群は22,080人、DORA群は4,504人で、大腿骨頚部骨折、および椎体骨折のリスクなどを比較した。

 この論文は、Springer Nature Linkに掲載された。
原著論文はこちら→https://link.springer.com/article/10.1186/s12882-025-04725-9

 データ解析の結果、BDZRA群はDORA群よりも大腿骨頚部骨折および椎体骨折の複合エンドポイントの累積発生率が低かった。また、大腿骨頚部骨折単独のリスクは、両群で同程度であった一方、椎体骨折単独のリスクはBDZRA群で有意に低かった。今回の結果は、CKD患者におけるDORA処方と骨代謝との間に何らかの関連性がある可能性を示唆した。

■小野木氏のインタビューは以下の通り。


Q CKD患者の睡眠薬と骨折に注目した理由はなんでしょうか。

A もともと、睡眠薬の持ち越し効果(ハングオーバーエフェクト)を評価したいという思いがありました。持ち越し効果とは睡眠薬の効果が、次の日の起床後も残ると、ふらつきなどの有害な事象が発生することを指します。持ち越し効果は、運転する人なら事故の危険がありますし、高齢患者で歩行する際には転倒リスクがあります。転倒して、歩けなくなったら生活が一変してQOL(Quality of Life=生活の質)が低下しますので、持ち越し効果の予防は非常に大事です。持ち越し効果は処方される患者や睡眠薬の種類によってさまざまであるため、服薬した翌日にまで眠気がどの程度継続するのかを一度調べてみようと考えていました。

 ところが、眠気が継続しているかどうかは主観によるので評価は難しく、採血をして血中濃度を測ったり、意識状態を定量的に測る機械を使ったりするなど大掛かりになってしまいます。そういった中ではアンケートで回答を求めるのが精いっぱいで、結果として恣意的になるおそれもあります。

 腎臓が悪いと、体内に毒素が溜まりやすく、さまざまな疾患の引き金になります。CKD患者は入眠障害も多いと言われていることも、今回の研究で、CKD患者を対象の集団にすることに決めた理由の一つです。そこで、睡眠薬を処方したCKD患者の骨折の発生率をアウトカムに設定した研究をデザインしました。

 骨折発生率を、いわゆるサロゲートマーカー(代用マーカー)にして睡眠薬を選ぶ基準にしてはどうかというのが大本の発想です。そこで今回は、睡眠薬の中でBDZRAとマイルドな効き目だとされるDORAを比較してみました。この研究により薬剤選択の意思決定に、新しい情報を提供できたらいいなと考えました。

Q 今回のデータベース研究で工夫した点、注意(配慮)した点などはありますか。

A 骨折を部位別に分けたのが、今回のデータベース研究で工夫した点の1つ目です。大腿骨頚部(足の付け根の骨)と椎体骨(背骨の骨)にしました。骨折リスクで重要視される2大部位で、それぞれの骨折の症状も違いますし、骨の組成が大きく異なります。大腿骨は中央が髄腔(ずいくう)と呼ばれる空洞になった筒状の硬い骨です。一方、背骨の円柱部分の椎体骨は、表面の硬い皮質骨と内部のスポンジ状の「海綿骨」で構成されるなど、両者はまったく違った構造です。どちらも損傷すると痛みが大きく、歩行に支障を来してADL(Activities of Daily Living=日常生活動作)に影響します。

 このように骨折を部位で分けることができたのは、大規模な診療データベースを活用したからです。骨折はもともと発生率が低いので、十分な検出力を設定して臨床試験をやろうとするとものすごく膨大な症例数を組み込まなくてはならないので、事実上不可能です。

 2つ目は、対象群を比較する際、患者背景がそろわない可能性を排除することです。これは今回の私の研究に限らず、ほかの研究者も当たり前にやっていることだと思います。

 データベースでBDZRA群とDORA群に分けたとしても、どちらかの薬剤を処方することを決めたのは、患者を診療している医師で、患者が高齢で転倒の不安があるからDORAを選んだという発想で処方されている医師も当然います。

 つまり、転倒して骨折しやすいと想定される患者にDORAが処方され“やすい”傾向があるので、そうすると、そこにいる4000人は、BDZRAを処方されている2万人よりも、診察時に骨折リスクが高そうな印象の強い患者が偏っている可能性があります。それらを単純に比較するとDORAを服用している人の方が、骨が折れやすいという結果になるかもしれないので、背景因子は注意してバイアスがかからないように調整しました。

 3つ目は、対象群に骨折をしやすい人が混じると結果がゆがみます。昔、骨折したことがある人は骨が折れやすいというのもありますし、もしくは骨折したことがある人は、骨粗鬆症の治療を受けているケースもあり、治療により骨代謝がまったく違っているので骨が折れにくくなっているということもあります。

 そのため睡眠薬を飲み始めた時点で過去に骨折歴がある人や、骨粗鬆症薬を処方されている歴のある人を除外しました。比較群同士で患者さんの特徴がベースラインでずれないように工夫しました。これだけ対象となる患者を削ってしまうと、n数がどんどん減っていくのですが、ビッグデータだからこそ、なせる業(ワザ)であったのだと思います。骨折の発症率はとても低いので、通常の観察研究では実現が難しいのですが、データベース研究だからこそできたのだと言えます。

Q 研究結果をどのように扱いますか。

 この結果をもって、BDZRAの方が優れているということではなく、患者さんそれぞれで薬が合う、合わないがあると思います。自然な入眠が売りとされているDORAが臨床現場で頻繁に処方されているというイメージがありますが、今回の研究結果は、CKD患者の骨折という観点からは、必ずしも全ての症例で最適とは限らない可能性を示しています。どの睡眠薬を処方するのかという場面になると「高齢だからDORA」「転倒が不安だからDORA」という発想で処方されることを見直して、必ずしもそうではなくて、患者さんそれぞれに合う薬を選ばなくてはいけないというメッセージであり、必ずしもBDZRAの方がいいというメッセージではないのが大事なポイントです。

※グラフは、BDZRA群、DORA群それぞれを調整して、より比較できるようにした。赤線の推移を見ると骨折発生率がDORA群において高い結果となっていることが分かる。

 今回の研究は、どちらの睡眠薬がいいのかということを決定付けるものではなかったのですが、DORAがすべてにおいて優れているわけではないので、患者さんごとに適切な睡眠薬を選択し、たとえ一度、その薬剤を処方したとしても、患者さんから効果を丁寧にヒアリングすることで場合によっては薬剤を変更していただくきっかけにしていただければと考えています。

Q 今後の研究テーマとしては、何に注目していますか。

 私はMDVのデータベースを使った他の研究にも参画しています。この時は高血圧薬についての研究でした。薬剤の副作用で低血圧になり転倒につながることがこの研究をデザインする背景にありました。今回のデータベース研究と同じくCKD患者を対象にしています。関心がある方には読んでいただきたいです。

 以下が、論文のURL
https://link.springer.com/article/10.1186/s12882-024-03892-5

 今後のテーマについては発生率の低い疾患は、臨床研究には難しい面があるのですが、データベース研究には適しています。例えば希少疾患(Rare Disease)について、データベースの特長である患者数が一定数確保できるテーマで研究していきたいです。私自身、腎臓内科が専門なので腎臓に関連するRare Diseaseはもちろんですが、データベース研究については専門を限定するものでもないので腎臓にかかわらず、データベースの特性を生かせるテーマを選んでいきたいです。

以上

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