「臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ」#14臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ
川崎病と新型コロナウイルス感染症の関連性を調査 鈴木、水野両氏ら研究グループが医療ビッグデータ活用

東北医科薬科大学感染症学教室の鈴木潤准教授、水野友貴助教らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した小児がその後、川崎病(Kawasaki disease=KD)を発症するリスクが高くなることを、メディカル・データ・ビジョン(以下、MDV)の保有する国内最大規模の診療データベースを活用して明らかにしました。
原著論文はこちら→https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/ped.70420
この論文は、小児科分野の国際誌「Pediatric International」のOriginal Article(原著論文)セクションに掲載されました。
KDは、主に4歳以下の乳幼児に発症する原因不明の全身性血管炎です。日本を含む北東アジア諸国で頻繁に報告されており、後遺症として冠動脈瘤を引き起こす可能性があります。特徴的な症状としては、発熱、両側眼球結膜の充血、口唇・口腔所見の変化(いちご舌など)、発疹、四肢末端の変化(硬性浮腫など)、非化膿性頸部リンパ節腫脹が挙げられますが、早期の免疫グロブリン大量療法により、冠動脈瘤の発症リスクを大幅に下げられるとされています。
これまでKDは、何らかのウイルス感染が引き金となって引き起こされる可能性が報告されてきました。世界的な健康問題であるCOVID-19との関連性も疑われていたものの、臨床現場における明確な関連性は明らかになっていませんでした。小児のCOVID-19は軽症で済む傾向がある一方で、回復後にさまざまな健康問題を発症するリスクが高まることが指摘されています。そこでこの研究では、MDVデータベースを活用し、COVID-19とKDとの関連性について調査・検証をしました。
この研究では、MDVデータベースで2020年1月1日から 2022年12月31日の間に COVID-19 と診断された18歳以下の患者を対象にしました。対象集団(COVID-19患者)のうち、KD患者を「KD症例」とし、研究期間中にKD既往歴がない患者を「対照群」と定義し、次の2つの分析を実施しました。
1つ目の分析手法であるネステッド症例対照研究※1、および条件付きロジスティック回帰分析※2では、
「KD 症例」と「対照群」 を 1:4 でマッチングし、過去 1~30 日、31~60 日、および 61~90 日の COVID-19 曝露のオッズ比 (OR=起こりやすさ) を計算しました。
※1 ネステッド症例対照研究(Nested Case-Control Study)とは大規模なコホート研究の中で発生した疾患や有害事象(症例)と、発症しなかった集団(対照)を比較し、特定のリスク要因との関連を調べる研究手法
※2 条件付きロジスティック回帰分析とはデータを「グループ(ペア)」に分け、グループ内の条件を考慮しながら特定の事象(発生・不発生など)が起こる確率を解析する統計手法
また、2つ目の分析手法である自己対照症例シリーズ (SCCS) 分析※3では、観察期間を COVID-19 診断 (0 日) の前後 120 日間と設定した上で、0 日以降の 3 つのリスク期間 (1~30 日、31~60 日、61~90 日) の発生率比 (IRR=Incidence Rate Ratio:発生率比)を対照期間と比較して計算しました。
※3 自己対照症例シリーズ(SCCS: Self-Controlled Case Series)は目的とするイベント(発症など)を経験した患者のみを解析対象とし、同一個人内で「曝露期間」と「非曝露期間」のイベント発生率を比較する疫学・統計解析手法
ネステッド症例対照分析では、134人の「KD症例」と536人の「対照群」をマッチング。過去1~30日間では、「KD症例」の26.1%(35/134)と「対照群」の7.3%(39/536)でCOVID-19への曝露が確認され(調整オッズ比7.8、95%信頼区間3.2~19)、過去31~60日間では、それぞれ18.7%(25/134)と8.8%(47/536)でCOVID-19の曝露が確認されました(調整オッズ比3.6、95%信頼区間2.0~6.5)。
また、SCCS分析では124人「KD症例」について、COVID-19診断後1~30日目(95%信頼区間:11 [6.0~20])と31~60日目(6.9 [3.6~13])で、IRRの上昇が明らかになりました。これらにより、COVID-19がKD発症と関連していると結論付けられました。
=東北医科薬科大感染症学サイト=
https://tmpu-infetct.com/research_results/
鈴木准教授、水野助教へのインタビューは以下です。
Q1 川崎病に着目した背景は何ですか?データベース解析研究をしようと考えた理由についてお聞かせください。
鈴木准教授:当医局ではMDVデータベースを導入後、ホワイトボードに多数の研究テーマを列挙した上で議論を重ね、優先順位を決定しました。その上で、各疾患とCOVID-19感染との関連性を調査する一連の解析研究に着手しました。これまでに、SCCS分析を用いた研究成果が相次いで論文としてアクセプトされています。COVID-19感染と各疾患との関連性を調査した研究としては、アクセプト順に、①心筋梗塞②帯状疱疹③川崎病④急性出血性脳卒中となります。
水野助教:川崎病を対象にした理由については、COVID-19が流行し始めた頃、手指消毒やマスク着用など感染症対策が徹底され、川崎病が減少したという臨床観察の報告を受けたからです。川崎病の病因論(エチオロジー=Etiology)として、遺伝的な感受性や何らかの病原体の暴露が関係しているのではないか、川崎病の発症には先行する病原体の暴露が関与したのではないかという仮説を立てました。そこで研究テーマとして、COVID-19の後に川崎病が増えるかどうかを調べてみようと思いました。
Q2 今回のデータベース研究をする上で工夫した点があったら教えてください。
鈴木准教授:この研究はネステッド症例対照研究と条件付きロジスティック回帰分析、さらにSCCS 分析を組み合わせて頑健性を評価した論文となっております。当初はSCCS分析のみを用いたブリーフレポート(短報)として投稿したものの、査読段階で複数回のリジェクトを経験するという困難もありました。しかし、日本小児科学会英文誌(Pediatrics International)への投稿の際、査読者よりフルアーティクル(原著論文)への変更を求められたことを機に、研究デザインを大幅に見直しました。フルアーティクル化に伴い、ネステッド症例対照研究デザインとおよび条件付きロジスティック回帰分析を追加することで、結果の頑健性を大幅に強化することができました。
水野助教:ネステッド症例対照研究デザインとして、川崎病症例134例に対し非発症例536例をマッチングしました。1対1マッチングでは、サンプル数が減少するため、1対4マッチングで医療ビッグデータのメリットを最大限に活用しました。また、リスク期間については、 マッチングをした時点から0〜30日前、31〜60日前、61〜90日前の3期間に分けてCOVID-19発症を追跡し、条件付きロジスティック回帰分析を用いてオッズ比を算出することができました。また、SCCSではCOVID-19罹患後に川崎病のIRRが上昇し、COVID-19との関係が明らかになりました。結果として学術的価値がより高い論文にすることができ、思い入れの深い研究です。
Q3 今回の研究結果を実臨床でどのように生かしていきますか。
水野助教:この研究で用いたSCCS分析の結果は、あくまで「感染後の特定期間における相対的なリスク上昇」を示すものであり、絶対的な発症リスクの増加を直接的に表すものではない点には留意が必要です。しかしながら、臨床現場においてリスクの存在を正しく認識する上で、この研究がもたらした知見は極めて重要であると考えます。小児がCOVID-19に感染した後は、一定期間、体調の変化に細心の注意を払う必要があります。そして、本病態における川崎病を早期に発見し、速やかに適切な治療介入をすることで、冠動脈瘤をはじめとする重篤な合併症の予防につながることが期待されます。
Q4 今回の一連の研究では、帯状疱疹も研究テーマにしています。その背景を教えてください。
鈴木准教授:この研究プロジェクトにおいて、川崎病と並び重要なテーマとなったのが「帯状疱疹」です。この着想は、研究者自身の臨床経験に端を発しています。具体的には、COVID-19感染後に帯状疱疹を発症した20歳代の若年層の症例を外来で診察したことが契機となりました。また社会的背景として、50歳以上を対象とした帯状疱疹ワクチンの公費助成(定期接種化)の議論が進むなど、世間の予防に対する関心が高まっていた時期でもあり、研究に至りました。臨床現場での気付きと社会的ニーズを原動力に進めたこの研究の成果は、疫学分野の国際的権威である「International Journal of Epidemiology」誌に掲載され、高い評価を得るに至っています。
原著論文はこちら→https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41005961/
この研究は2020年1月1日から2023年1月30日までの期間のCOVID-19患者を特定し、COVID-19診断の前後90日以内に帯状疱疹を発症し、抗ウイルス薬を処方された患者を対象にしました。研究手法としてSCCS分析をして、COVID-19感染と帯状疱疹発症の関連性を評価しました。
具体的にはCOVID-19患者399,381例のうち、558例が帯状疱疹と診断されていた患者を対象としています。COVID-19感染後の帯状疱疹発症リスクは、対照期間と比較して感染後1~2週目で最も高く(IRR 5.1、95%信頼区間 3.9-6.6)、3~4週目(IRR 1.7、95%信頼区間 1.2-2.5)、5~6週目(IRR 1.5、95%信頼区間 1.0-2.3)と時間経過とともに低下するものの、感染後6週間まで統計学的に有意なリスク上昇が持続していました。この研究はCOVID-19感染後に帯状疱疹のリスクが明確に上昇することを実臨床データから示した初めての研究成果となりました。
Q5 データベース研究の可能性をどのようにお考えですか。
鈴木准教授:一連のプロジェクトを通じて、大規模データベース研究には、次なるランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial =RCT)へと知見をつなぐ“橋渡しとしての機能”があることを改めて再認識いたしました。MDVデータベースは、実際の臨床実態を色濃く反映した貴重なリアルワールドデータです。まだ十分なエビデンスが確立されていないものの、実際の臨床現場で広く実施されているような治療法や病態の解明において、この大規模データベースを用いたアプローチは極めて有用であると考えています。臨床での些細な気付きや疑問を明日の医療へ還元していくためにも、私たちは今後もデータベース研究を精力的に継続していきます。
以上



