熱中症患者における薬剤使用状況とAKI発症・重症化の動向
熱中症は、高温環境下で体温調節機能が破綻することにより発症し、重症例では中枢神経障害や循環不全、急性腎障害(AKI)などの多臓器障害を引き起こす。特にAKIは代表的な合併症であり、脱水や循環血液量減少、横紋筋融解症などを背景に発症し、重症例では集中治療や腎代替療法を要する場合がある。
近年は猛暑日の増加や高齢化を背景に熱中症患者数が増加しており、利尿薬やRAS阻害薬、精神神経系薬剤など、熱中症リスクとの関連が指摘される薬剤が使用される機会も増えている。こうした背景から、熱中症診療においては患者背景や併存疾患、服用薬剤を踏まえた重症化リスクの把握が重要となっている。
そこで本レポートでは、7月の熱中症シーズン到来を踏まえ、MDVのDPCデータを用いて熱中症患者における事前処方薬の実態、AKI発症状況および重症例に対する腎代替療法の実施状況を検討した。
1. 熱中症入院患者における事前処方薬の状況

対象期間:2022年4月~2025年5月
対象期間における熱中症の入院患者11,323人(総入院件数11,520件)を対象
*1:入院日以前100日間での処方患者数 / 熱中症で入院患者数
*2:入院日以前100日間での処方患者数 / 熱中症で入院数指定年月のデータが全て揃っている病院
推移:
熱中症発症リスクとの関連が報告されている薬剤について、熱中症による入院患者における入院前100日間の処方状況を集計した。処方割合が最も高かったのは精神安定剤(7.6%)であり、次いでアンジオテンシンⅡ拮抗薬(単剤)(7.4%)、β遮断薬(単剤)(6.2%)、ループ利尿薬(単剤)(5.4%)が続いた。そのほか、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、SGLT2阻害薬、ビグアナイド系糖尿病薬なども一定割合で認められた。
見解:
本集計は、熱中症発症リスクとの関連が指摘されている薬剤群に限定して実施した。その結果、精神神経系薬剤、降圧薬、利尿薬および糖尿病治療薬の処方患者が多く認められた。特に精神安定剤や抗精神病薬などの精神神経系薬剤は、体温調節機能や発汗機能への影響が知られており、熱中症リスクとの関連が報告されている。また、アンジオテンシンⅡ拮抗薬、β遮断薬、利尿薬などの循環器領域薬剤も上位に認められた。一方で、いずれの薬剤群も熱中症入院患者全体に占める割合は10%未満であり、単一薬剤群への偏りは認められなかった。熱中症入院患者では高血圧、糖尿病、精神・神経疾患などの慢性疾患治療薬が幅広く処方されており、多様な患者背景を有する患者が含まれていることが示された。
2. 熱中症+AKI患者における事前処方薬の推移
まず、熱中症の患者数とAKIの合併患者数の推移をまとめた。

対象期間:2022年4月~2024年12月
対象疾患:熱中症(ICD-10:T67)、AKI(ICD-10:N17、病名コード:8849597)
*3:熱中症にAKIを合併した実患者数 / 各年の熱中症入院実患者数
推移:
熱中症患者数は2022年の3,120人から2023年は4,074人、2024年は4,459人へ増加した。熱中症にAKIを合併した患者数も275人、380人、450人と増加しており、AKI合併率は8.8%、9.3%、10.1%と年々上昇した。
続いて、熱中症かつAKI合併患者の入院日以前100日間のAKI関連薬剤の処方状況をまとめた。

対象期間:2022年4月~2024年12月
対象疾患:熱中症(ICD-10:T67)、AKI(ICD-10:N17、病名コード:8849597)
対象薬剤:利尿薬(ATC3:C03)、RAS阻害薬(ATC3:C09)
*4:当該薬剤の処方患者数(入院日以前100日間)/ 熱中症にAKIを合併した実患者数
推移:
熱中症にAKIを合併した患者における入院前100日以内の薬剤処方状況を見ると、利尿薬処方割合は2022年2.5%、2023年2.4%、2024年2.2%と大きな変動なく推移した。一方、RAS阻害薬処方割合は3.3%から6.8%へ上昇後、2024年は5.8%となった。利尿薬とRAS阻害薬の併用割合は2023年に4.5%まで上昇後、2024年は2.2%に低下した。
見解:
熱中症にAKIを合併した患者では、利尿薬単独処方よりもRAS阻害薬処方患者の割合が高く認められた。RAS阻害薬は高血圧や慢性腎臓病、心不全などの慢性疾患患者に広く使用されており、本結果は熱中症に伴うAKIが基礎疾患を有する患者で発生している可能性を示唆している。また、利尿薬とRAS阻害薬の併用患者も一定数認められており、体液量や腎血行動態に影響を受けやすい患者層が含まれていることがうかがえる。熱中症によるAKIリスクを評価する上では、気象要因だけでなく、基礎疾患や服薬状況を含めた患者背景の把握が重要であると考えられた。
3. 重症熱中症における腎代替療法の実施状況

対象期間:2022年4月~2024年12月
対象疾患:AKI(ICD-10:N17、標準病名コード:8849597)
対象診療行為:CRRT(診療行為コード:J042)、人工腎臓[その他](診療行為コード:140007710)
推移:
熱中症にAKIを合併した患者数は2022年275人、2023年380人、2024年450人と増加した。これに対し、CRRT実施患者数は8人、12人、17人で推移した。また、診療報酬上の「人工腎臓(その他)」算定患者数は2022年および2023年は各4人であったが、2024年は14人であった。
AKI患者数に占める割合で見ると、CRRT実施率は2.9%、3.2%、3.8%で推移した。一方、人工腎臓(その他)算定率は1.5%、1.1%、3.1%であった。
見解:
熱中症にAKIを合併した患者数の増加に伴い、腎代替療法関連処置の実施患者数も増加傾向を示した。CRRT実施率は2022年から2024年にかけて緩やかな上昇が認められた。また、人工腎臓(その他)算定患者数は2024年に増加し、算定率も前年までと比較して高い水準を示した。腎代替療法を要する患者はAKI患者全体の一部であるものの、重症例に対する集中治療および腎代替療法関連処置の実施機会は増加傾向にあり、熱中症に伴う重症AKIへの医療資源投入の実態を示す結果となった。特に2024年はCRRT実施患者数および人工腎臓(その他)算定患者数の双方で増加が認められた。
※本記事は2026年7月1日付で公開されたものです。
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