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「臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ」#11臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ

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心血管手術の周術期におけるプロポフォールとデクスメデトミジンの併用は死亡率低下に関連 田本氏らの研究グループが医療ビッグデータで解析

 京都大学医学部附属病院看護部集中治療部の田本光拡副看護師長らの研究グループは、心血管手術周術期におけるプロポフォール(Propofol)とデクスメデトミジン(Dexmedetomidine、以下DEX)の併用の有効性をメディカル・データ・ビジョン(以下、MDV)の保有する国内最大規模の診療ビッグデータを活用して解析研究をした。その結果、28日および90日死亡率の低下と関連した一方、術後せん妄(POD=Post-operative Delirium)発症リスクの有意な低下は認められなかった。

 この論文は、心臓、胸部、血管麻酔分野における国際学術誌であるJournal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesiaに掲載された。 原著論文はこちら→ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41453820/

 これは田本氏らが取り組んだ多施設後ろ向きコホート研究であり、PropofolとDEXの併用は、集中治療室(ICU)における鎮静戦略の一つとして用いられているものの、併用に関する研究は限られていた。Propofol とDEX併用の有効性については、RCT(Randomized Controlled Trial:ランダム化比較試験)で海外に先行研究があり、人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者を対象にPropofolをベースとした鎮静療法に低用量のDEXを追加しても、PODリスクに変化は認められなかった。
https://www.bjanaesthesia.org/article/S0007-0912(20)30954-5/fulltext

 この研究は高齢患者を対象にしており、あらかじめ設定されたサンプルサイズのもとで実施された比較的限定的な条件の研究であったため、田本氏らは、より大規模なビッグデータを用いて実臨床で同様の傾向が見られるかを検証しようと考えた。

 田本氏らはMDVの診療データで2008年4月から2019年7月までに心血管手術を受けた患者23,629人を、Propofol単剤の患者13,958人とPropofolとDEXの併用の患者9,671人に分けて、死亡率とPODの関連を検証した。解析の結果、PropofolとDEX の併用では28日および90日死亡率の有意な低下と関連していることが明らかになった。一方、PropofolとDEX の併用はPropofol単剤と比較してPODの発生率の有意な低下は認められなかった。

■田本氏のインタビューは以下の通り。

Q そもそもなぜPropofolとDEXの併用の有効性をデータベースで研究しようと考えたのですか。

 A PODは特に、高齢者に発生しやすい一過性の意識障害や注意・知覚障害で、日常の臨床場面で目にすることも少なくありません。

 PropofolとDEXの併用による死亡やPODの関連性については、海外の先行研究でRCTが行われていたものの、比較的限られた条件であったため、より大規模な実臨床データで検証したいと考えました。

 先行研究と私たちの結果が同じ傾向を示していたので、結果の解釈に一定の妥当性が得られたと考えています。死亡率低下との関連が示された点は、本研究の重要な知見だと考えています。(左上グラフ)

Q データベース研究で工夫した点は何ですか。

A 工夫した点は、大きく分けて3点あります。まず、解析対象は臨床で比較的よく遭遇する代表的な人工心肺を用いた心臓血管手術に絞り込みました。 具体的には、冠動脈バイパス術、弁膜症手術、大血管手術などを対象とすることで、結果を実臨床に結びつけて解釈しやすいようにしました。

 2つ目は時間軸を明確に規定しました。術前にせん妄を発症しているケースもあるので、死亡やPODの観察開始時点を明確に定義しました。時間軸があいまいになると、薬剤の効果の因果関係がはっきりしなくなることがあるので、そのような事態は避けたかったのです。

 3つ目は、PODの解析において、死亡によってその後のPOD発症が観察不能となる点を考慮し、死亡を競合リスク(Competing Risk)として扱って解析した点です。

Q データベース解析を検討している次のテーマがあれば教えてください。

A 今回のビッグデータ解析は心臓血管手術だったので、同じように術後の鎮静が必要となる、他領域の手術でも検討していきたいと考えています。

Q 以前から、医療現場でのデータ活用に興味をお持ちのようですが、医療・看護の質の可視化をテーマにしているのですか?

A 2018年に一度、京大病院と集中治療部とそこに関与する各診療科の医療や看護の質を測ることを目的にQuality Indicator(QI)委員会を立ち上げたことがありました。その頃は、データ収集が難しく、道半ばで委員会の活動がストップした苦い経験があります。

 最近になり、データ利活用できる環境が整いつつあり、データ取得も以前に比べて容易になってきました。そのため、例えば看護領域なら、せん妄の発症やリハビリテーション、皮膚のトラブルなどを項目別に分けて、質の改善や維持などを評価する試みをやってみたいと思っています。

以上

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