「臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ」#13臨床・薬学研究に貢献する医療ビッグデータ
多発性骨髄腫患者の治療期間短縮の予測因子を評価 半田氏ら研究グループが医療ビッグデータで解析

群馬大学医学部血液内科の半田寛診療科長らの研究グループは、多発性骨髄腫患者の治療期間(DoT=Duration of Therapy)短縮の予測因子について、メディカル・データ・ビジョン(以下、MDV)が保有する国内最大規模の診療データベースを活用して解析研究をしました。その結果、免疫調節薬の使用や血栓予防管理など、患者の疾患状態および管理関連因子が、DoTの長さと関連している可能性が示されました。
原著論文はこちら→ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41711382/
多発性骨髄腫の治療では、奏効率の高い新しい治療法が相次いで登場し、生存期間は著明に延長しています。一方で、わが国の日常臨床では、DoTの短縮が見られています。このデータ解析研究では、MDVデータに機械学習の手法を用い、DoTを短縮させる因子を特定することを目的としました。後ろ向き観察研究として、MDVの2003年から2022年までのデータベースを活用しました。
解析対象には、移植非適応の新規診断多発性骨髄腫(MM)患者(継続中の一次治療)、または再発・難治性MM患者(継続中の二次または三次治療)のうち、18歳以上の患者が含まれました。DoTを短縮する予測因子を特定するために、MDVデータから抽出された647の変数を用いて、説明可能な深層学習モデルを作成しました。抽出されたデータは、DoTを予測するためのポイントワイズ線形(PWL)モデルを構築する機械学習アルゴリズムのトレーニングに使用しました。
PWLモデルの予測性能は、エラスティックネット(正則化ロジスティック回帰)およびエクストリーム勾配ブースティングモデルと比較し、曲線下面積(AUC)を用いて、10分割二重交差検証により評価しました。さらに、4,848の個別サンプルを対象としたクラスタリング分析(k平均法)により、各サンプルとDoT(3カ月、6カ月、12カ月)との関係を評価しました。そのうえで、治療中および治療後のクラスターの特徴と、各クラスターに属するサンプルの特徴を調べました。
全体で2,762人(4,848の個別サンプル)の患者を評価しました。平均年齢は69.6歳(標準偏差11.8歳)、男性は1,450人(52.5%)でした。3カ月、6カ月、12カ月時点のDoTを予測するPWLモデルのAUCスコアは、それぞれ0.61、0.64、0.66でした。回帰モデルの係数の類似性に基づき、サンプルは3カ月時点で2つのクラスター(クラスターA、B)、6カ月時点で3つのクラスター(クラスターA、B、C)、12カ月時点で3つのクラスター(クラスターA、B、C)に分類されました。

PWLモデルを用いた機械学習により、DoTが短縮した多発性骨髄腫患者の治療傾向と特徴を効率的に把握できました。この研究により、免疫調節薬の使用や血栓予防管理など、患者の疾患状態および管理関連因子が、DoTの長さと関連している可能性が示されました。

このほか、半田氏らは、多発性骨髄腫患者の治療パターンと、症状の経過や転帰についてもMDVデータで解析し、論文化しています。
原著論文はこちら→ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37023056/
■半田氏のインタビューは以下の通り。
Q 臨床現場で多発性骨髄腫を治療するうえでの難しさ、課題は何ですか。
骨髄腫は高齢者に多い病気で、罹患年齢の中央値は70歳前後です。治療を開始しても、計画された期間にどれだけの量の薬を投与できるかという「治療強度」を十分に保てない患者さんが、かなりの割合でいます。また、骨髄腫は現在の医療でも根治が難しく、再発を繰り返すことが特徴です。
初期治療が有効であっても、薬を投与できる期間には限りがあります。その後、薬が効かなくなり、薬剤抵抗性も出てきて、最終的にはどの治療も効果がなくなってしまうことがあります。最近は治療法が多様になり、使用できる薬剤も増えてきたため、以前に比べれば長期生存が可能になってきました。良い治療法が初期段階で導入されれば、最初の治療薬を使える期間が長くなり、生存期間の延長にもつながります。最近では、20年生存する患者さんも一定数みられるようになっています。
一方で、患者さん一人ひとりに対する最適な治療法については、いまだ模索が続いています。その人に合った治療法を見つけられるかが大きな課題です。治療が有効かどうかを左右する要素は数多くあります。第一に、骨髄腫細胞が持つがんとしての性質、すなわち遺伝子異常の種類によって、著効を示す薬剤が異なることがあります。第二に、近年は免疫を利用して骨髄腫細胞を攻撃する薬剤が増えており、患者さん側の免疫状態も治療効果に関係します。第三に、副作用に患者さんが耐え、治療を継続できるかという点も重要です。
Q 多発性骨髄腫と治療期間(DoT)にフォーカスした背景を教えてください。
どんなに有効な治療法であっても、何らかの理由で継続できなくなれば、効果が出る前に中断してしまったり、十分な効果が得られないまま再発してしまったりすることがあります。その結果、生命予後に影響する可能性があります。骨髄腫は現時点で根治が難しいため、多くの治療では有効な薬剤を長く続けられることが重要です。
そのため、有効な治療をどのくらい長く継続できるかがポイントになります。治療中止の理由は大きく二つに分けられます。一つは、治療効果がなくなって中止する場合です。もう一つは、治療効果は得られているものの、有害事象など患者さん側の理由で治療を中止せざるを得ない場合です。
治療中止の要因が何であり、それがDoTにどのように影響しているのかを明らかにすることは重要です。初期治療を開始して早い段階でそれがわかれば、患者さんへの負担を減らすことにもつながります。これが、今回のデータ解析研究で治療期間にフォーカスした背景です。
Q 治療期間にフォーカスして、ビッグデータで解析研究するに至った理由を教えてください。
骨髄腫に限らず、多くの治療では、臨床試験、とくに第III相比較試験で治療効果が証明されています。ただし、臨床試験に参加できるのは、選択基準や除外基準、いわゆる適格基準(Eligibility Criteria)を満たした限られた患者さんです。
一方、実際の臨床現場には、必ずしも臨床試験の適格基準を満たす患者さんだけがいるわけではありません。実臨床で一人ひとりの患者さんにフォーカスしてデータを集めて解析する場合、患者さんの多様性が大きな問題になります。
臨床試験では、多様性をできるだけ少なくし、一定の条件や基準で患者集団を選択することで、正確な結論を導こうとします。しかし実臨床では、そのような均質な集団を作ることはできません。そのような状況で統計学的に意味のある結果を導き出すには、多くの患者数が必要です。そこで、すでに存在する大規模な患者データであるDPCデータを活用する意義が出てきます。
ランダム化比較試験に、後ろ向きコホートデータを用いた解析研究を組み合わせることで、実臨床における治療効果やDoTを短縮する因子を予測し、今後の臨床に役立てられるのではないかと考えました。
Q ビッグデータ解析研究を進める中で、気づいた点はありましたか。
今回のデータ研究では、2本の論文をまとめています。
【再掲】原著論文はこちら→ https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37023056/
このデータ解析研究では、骨髄腫治療における治療パターンを検証しました。パターン解析であり、先ほどの研究のような特別な解析はしていません。どの年代に、どのような治療法が提供されていたかを検討しました。
興味深かったのは、データを解析する中で、合併症としてHIV(ヒト免疫不全ウイルス)がDPCデータに登録されている患者さんが多かったことです。しかし、その頻度は一般人口におけるHIV罹患者の割合や、私たちが実際に診療している骨髄腫患者さんにおける有病率よりも高く、奇妙に感じました。
その理由を考えると、臨床現場では、感染症を契機に発症した骨髄腫患者さんに対してHIV感染を疑い、HIV検査をすることがあります。その際、保険請求上、HIVの疑い病名としてDPCに登録されている可能性があると推測しました。実際、HIV病名が登録されていた患者さんの中にHIV治療薬を投与されていた人がいなかったことも、この推測を裏付けるものと考えています。
今回の研究には、製薬会社のメディカルアフェアーズ担当者やデータ解析の専門家も関与しましたが、このような気づきは臨床現場を知る医師がいたからこそ得られたのではないかと思います。データ解析研究では、データから抽出された結果を関係者で話し合うことで、さまざまな示唆が見えてくるのだと実感しました。
Q 今回の結果をどのように臨床に生かすお考えですか。
骨髄腫の治療パターンに関する論文については、当時の治療パターンが明らかになったという結果です。骨髄腫治療薬の開発スピードは速く、治療は年々変化しており、現在では薬剤の組み合わせも当時とは大きく異なっています。そのため、この研究結果をそのまま現在の臨床現場に生かすことは難しい面がありますが、その時代の治療パターンの傾向を把握できたことには意味があると思います。
また、機械学習を用いてDoTを短縮するパターンと要因を分析できたことは、臨床に生かせる可能性があると考えています。同時に、新しい解析方法を用いた研究が可能であること自体も、今後に生かしたい点です。
今後もデータ解析研究を続けていきたいと考えています。近年発達の著しいAI(人工知能)を用いてビッグデータを解析することで、人間の頭脳だけでは到底発見できないことを見いだし、臨床現場で患者さんの予後改善に役立つ予測因子を発見できればいいと考えています。
以上




