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研究・開発を生かすリアルワールドデータ活用法|承認後エビデンスの最前線#148他RWD関連TOPIXコラム

 リアルワールドデータ(RWD:Real-World Data)およびリアルワールドエビデンス(RWE:Real-World Evidence)は、医薬品や医療機器の研究開発、薬事承認後の評価において、その重要性を高めています。
臨床試験だけでは捉えきれない、実臨床下での有効性や安全性を評価するうえで有用な要素となりつつあるためです。

本記事では、RWD/RWEが薬事承認後にどのように活用され、日本の規制当局の動向や制度が研究開発にどのような影響を与えているのか解説します。

薬事承認後におけるリアルワールドデータ(RWD)の活用とは

 薬事承認後のフェーズでは、RWDは市販後調査や安全対策、製品価値の再評価など、多岐にわたる用途で活用されています。これは、限られた被験者、厳密な条件下で実施される臨床試験の結果だけでは見えにくい、多様な患者背景や併存疾患、併用薬といった実臨床の情報を補完し、製品のライフサイクル全体を通じてその真の価値を明らかにするうえで極めて重要です。RWDには、電子カルテデータ(EHR:Electronic Health Record)、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB:National Database)、健診データ、レジストリデータ、さらにはウェアラブルデバイスから得られるデータなどが含まれます。

HTA視点で見たRWD活用の重要性

 近年、医薬品や医療機器の保険償還価格を決定するプロセスにおいて、医療技術評価(HTA:Health Technology Assessment)の重要性が増しています。HTAは、単に臨床的有効性・安全性だけでなく、費用対効果や社会的な影響も含めて医療技術の価値を総合的に評価するものです。

臨床試験で示された「理想的な環境下での効果」と、実臨床で得られる「現実の環境下での効果」との間に乖離(ギャップ)が生じることは少なくありません。HTAにおいては、この実臨床での有効性や、特定の患者集団における長期間のアウトカム、QOL(Quality of Life:生活の質)への影響などを詳細に評価する必要があり、そのためにRWDやRWEが役立ちます。

RWDや、RWDから解析され導き出されるRWEは、当該製品が日本の実際の医療環境下で、どの程度の医療経済的な価値、つまり費用対効果を有するかを示すための根拠となります。これにより、適切な保険償還価格の設定や、医療資源の適正な配分に寄与し、ひいては製品価値を適切に評価・説明することにつながります。

承認後エビデンス(Post-marketing Evidence)の具体的な利用例

 承認後エビデンスとしてのRWD活用は、単なる副作用報告に留まりません。限られた期間や条件下で得られる臨床試験データを補完する形で、承認後も役立ちます。

具体的な利用例としては以下のようなものがあります。

  1. 特定集団における有効性・安全性プロファイルの評価

    高齢者、小児、特定の併存疾患を持つ患者など、臨床試験の実施が難しい特殊な背景を持つ集団における製品の効果や安全性を詳細に解析します。例えば、希少がんの治療薬では、患者数が少なく十分な臨床試験データの収集が難しいことから、RWDを活用したエビデンス創出や評価が行われた事例があります。     妊娠中の医薬品使用による影響評価への利活用も、ニーズがある分野の一つです。
  1. 長期アウトカムの評価

    慢性疾患治療薬や予防的医療機器など、効果発現に時間を要する製品について、数年以上にわたる長期的な治療効果、再発率、生存期間などを追跡調査します。長期間にわたる臨床検査値や評価項目に対する変化の観察が可能であり、承認後に収集される長期的なデータによって、有効性や安全性に関する知見をさらに補完することが可能です。
  1. 新たな適応症の探索的検討

    例えば、男性乳がんなど患者数が少ない疾患領域では、RWDを活用したエビデンスが追加適応申請に活用された事例があります。致死性の高さや患者数の少なさから臨床試験の実施が困難でしたが、EHRデータベースや保険請求データを用いたRWD解析が活用され、追加適応取得につながりました。

レジストリ研究による継続的な評価の実例

 承認後エビデンスの創出において、特に注目されているのがレジストリ研究です。レジストリは、特定の疾患、治療法、または医療機器の使用者に関する臨床データや患者情報を系統的かつ継続的に収集・管理するデータベースです。

継続的な評価のためにレジストリ研究が活用された事例としては、再生医療等製品やデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD:Duchenne muscular dystrophy)治療剤の事例が挙げられます。

この再生医療等製品の例では、承認条件として、一定の症例データが集積されるまでは、全ての症例を対象に使用成績調査が義務付けられました。

DMD治療剤においては、医薬品の安全性監視活動のため、DMDの疾患レジストリを活用した調査計画が策定されています。

学会主導のレジストリや、「改正次世代医療基盤法」に基づく認定事業者によるデータ整備が進んでおり、これらのデータは将来的に医薬品や医療機器を有効活用するために使用されることが期待されています(参考1)。

RWD/RWEを活用した薬事承認の動向とその後のデータ利活用

 RWD/RWEの活用は、薬事承認後の世界だけでなく、承認審査の考え方にも変化をもたらしています。特に、プログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)や、希少疾患を対象とする医薬品など、従来の臨床試験中心の評価が困難な領域において、継続的にデータやエビデンスを更新していく姿勢が必要です。

プログラム医療機器(SaMD)の段階承認制度と薬事ガイドライン

 プログラム医療機器は、その特性上、市販後も頻繁にアルゴリズムの更新や機能が改善される可能性があります。従来の画一的な承認制度では、革新的な技術の迅速な実用化を妨げることが考えられるため、二段階承認制度に関する取扱いを公表しています(参考2)。

この二段階承認は、非臨床試験や性能験の結果などから確認できる範囲で承認をする第1段階承認、市販後に収集されたRWD/RWEを用いて臨床的有用性を評価し、その結果を踏まえて実施される第2段階承認で構成されています。

研究開発においては、承認を見据えた段階から、RWDを効率的かつ適切に収集・解析するためのプロトコル設計が必要です。

PMDAによるRWDの評価と信頼性担保の要件

 薬事申請におけるRWD/RWEの活用が進められていますが、利活用の前提として、信頼性の担保が必要不可欠です。

RWDを承認申請等に使用する場合は、データベースの適合性、データベースの品質、エビデンスの信頼性が主な3要件となっています。

これらは独立した要件ではなく、まずはデータベースの適合性と品質が基準以上であることが土台となり、そのデータベースを正しく活用することにより、承認申請などの意思決定に耐えうる信頼性の高いエビデンスが創出されると考えられています。

それぞれ3要件を構成する要素は以下の通りです(参考3)。

  1. データベースの適合性
    一般化可能性・代表性(Generalizability/Representativeness)
    充足性(Completeness)
    適時性(Timeliness)
    比較可能性(Comparability)
  2. データベースの品質
    正確性(Accuracy)
    完全性(Completeness)
    透明性(Transparency)
  3. エビデンスの信頼性
    適切な薬剤疫学的手法および統計学的手法の利用
    研究の透明性

承認申請に生かせるデータベースと制度改正の最新情報

 国内における医療ビッグデータの整備は、「健康医療データの利活用について」(2025年2月26日)という近年の政府方針のもと、着実に進展していることが読み取れます(参考4)。関連する制度改正の最新情報を把握しておくことで、データベースを最大限に活用することができるでしょう。

レジストリデータを申請に活用する際の流れ・留意点

 ここでは、申請にレジストリデータを活用する場合の全体の流れと、各段階の留意点の例を示します(参考5)。

  1. レジストリの利活用について社内で提案する
    留意点:レジストリが目的や求めるメリットに合致しているかを確認すること、利用できない場合のために従来のデータ収集方法などのバックアッププランを用意しておくこと
  2. レジストリ利活用について社内で合意を得る
    留意点:レジストリデータの信頼性・適切性・データアクセスに問題がないか確認すること
  3. レジストリ利活用についてPMDAから意見を得る
    留意点:候補に挙げたレジストリが利用できない場合があるため早期に相談すること
  4. レジストリ保有者と契約する
    留意点:データ解析に関する役割分担や結果の帰属などを可能な限り契約時点で明確にしておくこと、契約解消となる場合を考慮してリスク共有やマイルストン支払いなど双方が合意できる契約内容として整理しておくこと
  5. 必要に応じてレジストリを改修する
    留意点:改修時に必要なレジストリ保有者側の意思決定プロセスを理解しタイムラインを作成すること

 レジストリデータは薬事申請への活用の可能性を広げる一方で、研究設計の初期段階から、利活用の目的の明確化、データの品質や信頼性の高さを確認すること、社内外の調整といったこれまでとは異なる準備や対策を必要とします。

医療機器「リバランス」制度と研究者が押さえるべき通知事項

 医療機器分野では、「市販前・市販後を通じた取組みを踏まえた対応」として、いわゆる「リバランス通知」が公表されています。これは、改良・改善の頻度が高い医療機器について、従来のように変更のたびに大規模な治験を求めるのではなく、市販後データも活用しながら継続的に有効性・安全性を評価する考え方を整理したものです。

研究開発者が押さえるべき通知事項には、厚生労働省「プログラム医療機器の特性を踏まえた二段階承認に係る取扱いについて」(参考2)でリバランス通知と呼称されている『医療機器の「臨床試験の試験成績に関する資料」の提出が必要な範囲等に係る取扱い(市販前・市販後を通じた取組みを踏まえた対応)について』が参考になります(参考6)。

リバランス通知では、承認前のデータだけでなく、市販後のデータによる継続的な評価に関する説明が整理されています。

HTA政策と制度変更が研究設計に与える影響

 近年は、RWD/RWE活用の拡大に伴い、HTA、薬事承認、市販後評価に関する制度整備が進められています。従来は、承認時点の臨床試験データが中心でしたが、現在では「実臨床下でどのような価値を示すか」が重視されるようになってきました。

HTAでは、有効性・安全性だけでなく、費用対効果やQOL(Quality of Life)、長期アウトカムなども評価項目となります。そのため研究開発の段階から、実臨床データ(RWD)を活用した長期追跡や、医療経済評価を見据えたアウトカム設計が必要です。

PMDAにおいても、上述のリバランス通知のように「市販前から市販後まで一貫した安全性及び有効性の確保策」が示されており、承認後のRWD収集や継続的なエビデンス創出の重要性が強調されています。
このように、RWD/RWE活用を前提とした制度変化によって、研究設計も市販後評価やHTAを見据えたライフサイクル全体でのエビデンス創出へと変化しつつあります。

【まとめ】RWD/RWEの有効活用は、制度的理解と信頼性担保がカギとなる

 リアルワールドデータ(RWD)およびリアルワールドエビデンス(RWE)は、薬事承認後において、製品の有効性や安全性を実臨床化で評価するうえで重要な情報源です。

国内の知見はまだ多くありませんが、通知や制度の根本にある意図や信頼性担保の重要性、レジストリ活用時の手順や各段階の留意点を理解することで、効率的かつ正確にRWD/RWEを活用でき、製品を市場に送り出した後もその価値を継続的に高めることができるでしょう。


参考文献

(参考1)内閣府ホームページ「改正次世代医療基盤法について(利活用編)
(参考2)厚生労働省「プログラム医療機器の特性を踏まえた二段階承認に係る取扱いについて
(参考3)日本製薬工業協会「リアルワールドデータを承認申請等に活用するための3つの要件と7つの提案
(参考4)内閣官房「健康医療データの利活用について
(参考5)日本製薬工業協会「医薬品の承認申請等にレジストリを利活用する際の社内プロセスフロー(社内提案からレジストリ改修まで)
(参考6)厚生労働省「医療機器の「臨床試験の試験成績に関する資料」の提出が必要な範囲等に係る取扱い(市販前・市販後を通じた取組みを踏まえた対応)について


【監修医師】大塚 真紀

東京大学大学院医学系研究科卒。医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医。都内の大学病院勤務を経て、夫の仕事の都合で渡米し、アメリカでは研究員として勤務。現在は日本に帰国し、在宅で医療関連の記事の執筆や監修、医療系YouTube監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作、医療系生成AIのアドバイザー、オンライン診療、医学意見書作成、看護師や一般向けの書籍執筆など幅広く行う。

【執筆者】吉村友希

医薬品開発職を経て医療ライターに転身。疾患・DX/AI・医療広告・薬機法など、医療と健康に特化した記事制作を担当。英語論文を活用した執筆やSEO対策も可能。YMAA認証取得。

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